電力と並行してガスの小売全面自由化を2017年4月に実施することが確実になった。政府の委員会がガス市場の改革案として示したもので、家庭を中心とする小口の利用者にも自由な料金設定でガスを販売できるようになる。ガス会社の導管事業の分離を含めて、電力と同様の市場開放が進む。
政府が主宰する「ガスシステム改革小委員会」が小売全面自由化を柱とする改革案をまとめた。これまで地域ごとに200社強のガス事業者だけに認められてきた小口の利用者に対する販売を自由化して、電力とともに競争を促す方針だ(図1)。
自由化の対象になるガスの利用者は家庭を中心に全国で2500万を超え、市場規模は2.4兆円にのぼる。政府は2015年内にガス事業法の改正案を国会に提出して成立させたうえで、2017年4月に小売全面自由化を実施する。
電力に続いてガスの小売全面自由化の実施時期が明確になったことで、電力会社や石油会社などを交えて顧客獲得競争が激しくなるのは必至だ。電力・ガス・石油を組み合わせたエネルギーのセット販売が可能になり、「総合エネルギー事業」の拡大に向けて地域を超えた事業者の連携が急速に進んでいく。
さらに電力の「発送電分離」と同様に、ガスの供給ネットワークを対象にした「導管分離」を2019〜2021年に実施する可能性も高まった。大手ガス会社の小売事業と導管事業を別会社に分離して、導管の利用条件を公平にする狙いがある。大規模な導管ネットワークを保有する東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの3社に限定して導管分離を実施する案が有力だ。
ガスの小売全面自由化に伴って市場構造は大きく変わる。現在のガス市場は家庭を含めて小売と導管の両事業を手がける200社強の「一般ガス事業者」を中心に、大口の利用者に限定して小売ができる「大口ガス事業者」、導管を所有してガスの卸供給と大口の小売ができる「ガス導管事業者」の3種類に分けられている(図2)。
2017年4月からは「ガス小売事業者」と「ガス導管事業者」の2種類に集約する。利用者は大口・小口を問わず、小売事業者からガスを購入する形態になる(図3)。小売事業者には従来のガス会社のほか、すでに大口の小売を開始している電力会社や石油会社をはじめ、流通業や通信事業者などが電力に加えてガスの市場にも参入する可能性がある。
よりいっそう競争を促進するために、ガス導管事業者を「一般」と「特定」に分ける。現在の一般ガス事業者のうち、高圧から低圧までの導管ネットワークを運営して、小口の利用者にもガスを供給できる場合には「一般ガス導管事業者」になる。これに対して高圧と中圧の導管だけを運営する場合には「特定ガス導管事業者」に分類して規制を緩和する。
小売の全面自由化に合わせて導管事業の規制を緩和する目的の1つは、ガスの導管ネットワークを全国各地に拡大することにある。現在の導管ネットワークは需要の大きい都市部を中心に整備が進められた結果、特定のエリアに集中して地域間では分断されている状況だ(図4)。電力の送配電ネットワークと比べた大きな違いで、ガス市場の活性化を阻害しかねない。
こうした状況を改善するために、特定ガス導管事業者は届出制にして、導管の敷設や料金設定を含めて事業者の自主判断で進められるようにする。一方で一般ガス導管事業者に対しては電力会社の送配電部門と同様に認可制を適用して、低圧の導管を独占的に運営できる代わりに、料金面の規制などを継続する考えだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.