電力に続くガスの小売全面自由化が2017年4月に始まる。全国に3000万の需要家を抱える都市ガスの市場開放に向けて電力会社の動きも活発になってきた。政府は電力と同様に料金規制の撤廃や託送供給の拡大を推進するが、都市ガスならではの同時同量制度や導管の運用ルールに課題が残る。
電力とガスを中心とする日本のエネルギー市場が大きな変革期を迎えている。大手の電力会社とガス会社が規制のもとで圧倒的な競争力を発揮してきた状態から、自由競争の時代に移る。電力会社の発送電分離が2020年4月に、大手ガス3社の導管分離も2022年4月に実施することが決まった(図1)。市場開放に向けた制度改革が急ピッチに進んでいく。
新たに小売が自由化になる家庭向けの市場は電力が8000万件、都市ガスも3000万件の需要家が集まる(図2)。電力市場に新規参入する企業が続々と増える一方で、攻勢を受ける電力会社は都市ガスの市場開放に活路を見いだそうとしている。東京電力・中部電力・関西電力の大手3社を中心に、電力と同様の自由競争を政府に強く働きかけ始めた。
電力会社が要求する都市ガスの制度改革は主に3つある。1つ目はガス事業者が運営する都市ガスの導管に関するものだ。電力の場合には小売事業者が電力会社の送配電ネットワークを使って需要家まで供給する仕組みだが、ガスの場合も似たようなシステムになっている。
ガスの小売事業者は販売量に応じたLNG(液化天然ガス)を供給して、導管事業者に託送を依頼する(図3)。実際の需要と供給量は一致しないが、小売事業者は現在の制度では1時間あたり10%以内の変動に収める必要がある。このため拠点ごとに通信設備を導入して供給量を調整している。
一方で既存のガス事業者は運営する導管ネットワークの貯蔵機能を生かして需給バランスを調整することができる。おおむね1日単位で需要と供給量を一致させている。拠点ごとに通信設備を導入する必要もなく、新規参入の小売事業者と比べると運営コストの面で有利になる。
電力と違ってガスは貯蔵しやすいことから、需要と供給量を一致させる同時同量を実現することは電力と比べて難しくない。政府は都市ガスの小売全面自由化に合わせて新しい託送供給の方式を2通り検討中だ(図4)。1つは「プロファイリング託送方式」で、小売事業者は時間帯ごとの需要の想定値(プロファイル)に基づいて供給量を確保する。電力の小売全面自由化で導入する「計画値同時同量」に近い。
もう1つは「ロードカーブ託送方式」で、地域全体の需要に対して全事業者が分担してガスを供給する。既存と新規の事業者が平等にガスの導管を利用できる利点がある。現在のところ需給バランスを調整するコストの分担方法が決まっていないために、料金に対する影響度が不明だ。小売全面自由化が始まる1年前の2016年3月までには、2つの方式のどちらかをベースに新しい託送供給のルールを決める必要がある。
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