小売電気事業者が供給する電力の電源構成を厳密に算出することは実際にむずかしい。個々の発電所から需要家に届くまでに、物理的には電力が混ざり合い、電源の種類に関係なく均質の電力になって供給される(図3)。そのあいだに電力会社(小売全面自由化後は送配電事業者)から需給調整の電力も加えられる。
とはいえ、需要家が特定の電源や種別を指定して電力の購入契約を結ぶことは可能だ。物理的に電力が混ざり合っても、再生可能エネルギーによる電力を購入したい需要家は、より多くの電力を再生可能エネルギーで調達する小売電気事業者を選ぶことで、実質的に電源の種類を特定することができる。
消費者のあいだでは、原子力で発電した電力を買いたくない、という意見が数多く聞かれる。福島第一原子力発電所の事故がもたらした悲惨な状況を見れば、そうした考えが今なお根強く残るのは無理もない。九州電力が相次いで原子力発電所を再稼働させたことで、九州の消費者の多くが小売全面自由化を機に購入契約を他社に切り替えることは十分に予想できる。
ただし問題は、九州電力から電力を調達する小売電気事業者が電源構成を開示しない場合だ。消費者には契約する電力に原子力が含まれているかどうかはわからない。そうなると、原子力を望まない消費者は電源構成を開示している小売電気事業者だけを対象にして購入先を選ぶ必要がある。
電力取引監視等委員会では電気事業法や消費者契約法などの法制度もふまえて、電源構成の開示を義務化しない方向で議論を進めようとしている(図4)。その論点を見る限り、委員会が果たすべき需要家保護よりも「電力会社保護」の姿勢が色濃く表れている。
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