需要家が電力の購入先を選ぶ時に、料金だけではなくて電源の種類を検討対象に加えることも想定される。特に環境面を重視する需要家は放射能汚染のリスクがある原子力発電やCO2(二酸化炭素)を大量に排出する火力発電を敬遠する傾向が強い。
政府が推進するエネルギーミックス(電源構成)の長期目標でも、原子力と火力を抑制して再生可能エネルギーを拡大する方針が示されている。国全体で再生可能エネルギーの導入量を増やすためには、需要家が小売電気事業者の電源構成を把握したうえで選別できるようにすることが重要だ。
政府は小売電気事業者に電源構成の開示を義務づける方向で検討を開始したものの、結局は望ましい行為にとどめた(図5)。小規模な事業者にとって情報開示が負担になることなどを理由に挙げているが、原子力を再稼働させたい電力会社に配慮したとも考えられる。家庭を中心に原子力による電力の購入を望まない層が少なくないためだ。実際に電力会社が2016年4月から電源構成を開示するかどうかに注目したい。
小売電気事業者に電源構成の開示を求めるにあたって、ガイドラインの中で開示例や算定方法を示して公正を期す。再生可能エネルギーのうち固定価格買取制度(FIT:Feed-In-Tariff)の適用を受けた電力は「FIT電気」として区分したうえで補足説明を併記する必要がある(図6)。
さらに他社から調達した電源の区分方法について明示するほか、電力1kWh(キロワット時)あたりのCO2排出量を表す「CO2排出係数」の併記も求める。CO2排出係数が大きい事業者の電力を購入することは国のCO2排出量を増加させることにつながるため、家庭のみならず企業が電力の購入先を選択する時の判断材料にもなる。その点からも電源構成の開示は小売電気事業者が社会的な責任として実施すべき項目である。
政府は再生可能エネルギーによる電力を過度に宣伝することを防ぐために、電源構成に関する規定をガイドラインの中に数多く盛り込んだ。「クリーンな電源で発電しているためきれいな電気が届く」、「安定的に発電できる電源を用いているため周波数や電圧が安定している」など、電力の質を表すような誤解を招く説明は問題となる行為とみなす。
ただし再生可能エネルギーの販売に関しては規制が過剰な面もある。FIT電気を「グリーン電力」や「クリーン電力」といった表現で説明することを問題となる行為に加えている点が典型例だ。FITによる再生可能エネルギーの買取金額は電力の需要家すべてが負担しているために、原子力や火力による電力の費用が含まれているという理由による。
固定価格買取制度が始まった2012年7月以降に運転を開始した再生可能エネルギーの発電設備の多くはFIT電気に分類されることになり、電源構成で「再生可能エネルギー」や「再エネ」と表示できる電力は極めて少なくなる。現実にはFIT電気も再生可能エネルギーであることに変わりはない。その点を需要家が認識したうえで小売電気事業者を選択する必要がある。
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