ガスから作る太陽電池、効率23%でコスト半減蓄電・発電機器(3/3 ページ)

» 2015年12月17日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]
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もともとは太陽電池向けの技術ではなかった

 今回の成果に至る道筋はこうなる。Crystal Solarは2008年の創業後、高速エピタキシャル膜成長実験を続けていた。2013年11月に長州産業が開発に参加、太陽電池向けの技術開発を開始した。どのような条件であれば太陽電池に応用できるかという研究だ。その結果、「高スループットエピタキシーによるダイレクト単結晶シリコンウェハー成長法」(Direct Monocrystalline Silicon Wafer Growth by High-Throughput Epitaxy)を開発。

 最初の成果は、2015年6月にApplied Physics Letters誌に掲載された論文に記されている*6)。243.4平方センチメートル(およそ156ミリメートル角)のセルで変換効率が22.5%に到達(自社測定)、従来の記録21.2%を1.3ポイント上回った。このときのウエハーの厚みは130マイクロメートル。セルの層構造は、光が入射する側から、銀グリッド電極/ICO(酸化インジウムセリウム)透明電極/p型アモルファスシリコン/i型アモルファスシリコン/新ウエハーを用いたn型単結晶シリコン/i型アモルファスシリコン/n型アモルファスシリコン/ICO透明電極/銀電極。

 その後、効率が23%を突破(自社測定)。2015年9月にドイツのハンブルクで開催された国際会議「EU PVSEC 2015」で報告している。セルの構造は2015年6月の論文とほとんど同じだ。

*6) "High efficiency heterojunction solar cells on n-type kerfless mono crystalline silicon wafers by epitaxial growth", E.Kobayashi, Y.Watabe, R.Hao, and T.S.Ravi,Appl.Phys.Lett. 106,223504(2015)

再利用できる基板で低コスト化を確立

 エピタキシャル成長を利用したシリコンウエハーという考え方自体は、それほど突飛なものではない。なぜなら、メモリなどを製造する際に、単結晶シリコンウエハーの表面の荒さを改善するため、エピタキシャル成長を利用するからだ。

 今回の技術で興味深いのは、ウエハーを成長させる際、単結晶シリコン基板を数十回再利用できるようにしたことだろう。基板を1回しか使えなかったとしたら、エピタキシャル成長の「うまみ」がほとんどないからだ。

 再利用できるようにするための工夫は、単結晶シリコン基板の表面を多孔質化処理したことだ。これによって、成長したエピタキシャルウエハーを機械的に剥離できるようになった。

 「多孔質だと、ごく小さい面積ではエピタキシャル成長によって単結晶膜が作られるものの、穴の上で左右から成長してきた膜がぶつかり、結晶欠陥ができる。エピタキシャル成長は横方向と同じように上方向にも原子が積み上がる。そこで、上方に成長するに従って結晶欠陥がなくなる条件を探した。完成したウエハーの底面側には欠陥が残るものの、太陽電池用セルに必要なテクスチャー形成工程で数マイクロメートル分を取り除くため、残ったウエハーは単結晶となる」(長州産業)。

 テクスチャーとは、ウエハーの表面をわざとでこぼこにすることで、入射光が反射せず、取り込んだ光を逃がさない構造をいう。ごく一般的な構造だ。

図3 エピタキシャルウエハーの製造工程 出典:長州産業

 図3にウエハーを製造する今回の工程の全体像を示した。灰色の部分が再利用する単結晶シリコン基板、黄緑色が多孔質(porous)に加工された部分、濃い灰色がエピタキシャルウエハーだ。

 図中央上の状態から工程が始まる。まず(1)で単結晶シリコン基板の表面に多孔質処理を施す、(2)でエピタキシャル成長を開始、(3)で必要な厚みに達した後、レーザーで正方形のウエハーを切り出す、(4)では圧力差でチャックしてウエハーを持ち上げて、テクスチャー形成工程に流す、(5)では、レーザー切り出しで残ったエピタキシャル層一部と基板の多孔質構造を薬剤で溶かして除去している。これが製造の1サイクルに相当する。

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