100%水素で発電するガスタービンの実現へ、環境性能の両立に成功蓄電・発電機器

将来の水素の利用方法に、化石燃料の代替として発電用ガスタービンの燃料に使う方法が検討されている。しかしこれまで存在しなかった“水素専焼”ガスタービンの実現には、まだ複数の課題が残る。その1つである燃焼時における窒素酸化物(NOx)の発生量を抑える燃焼技術を川崎重工が開発した。

» 2015年12月24日 11時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 水素を燃焼して発電するガスタービンの開発が進んでいる。水素と他の燃料を混焼する技術は確立してきたが、今後期待されるのは化石燃料を用いず、100%水素で発電できる水素専焼ガスタービンの開発だ。工場内で得られる副生水素などを活用した経済的な発電が期待できる。一方、実用化に向けた課題の1つとして残るのが、燃焼時に環境へ影響を及ぼす窒素酸化物(NOx)が発生する点だ。これを抑えられる燃焼技術が必要になる。

 こうした技術開発に取り組んでいる川崎重工は、水素専焼ガスタービンを実用化する上で低NOxに貢献する「水素専焼ドライ・ロー・エミッション(DLE)」という燃焼技術の開発に成功した(図1)。ドイツで実施した燃焼試験において環境基準をクリアする低NOx性能を確認したという。

図1 DLEにより低NOxを実現する水素専焼ガスタービン用燃焼器 出典:川崎重工業

 水素と空気の混合気を燃焼する際、燃焼温度が高温になるためNOxが発生しやすい状態になる。ガスタービンを利用した水素燃焼においてNOxが発生しやすい理由には、燃焼速度が速い水素を用いると燃焼が不安定になることや、火炎温度が高くなるという点が挙げられる。川崎重工によればこうした要因により、天然ガスを燃焼した場合と比較して約2倍のNOxが発生してしまうという。

 同社ではこれらの課題を解決するために、微小な水素火炎を用いて逆火などの不安定な燃焼を抑える技術の開発を進めてきた。そして2014年度からは科学技術振興機構(JST)より委託を受け、この微小な水素火炎を用いた低NOx性能を持つガスタービンの燃焼器の開発に取り組んでいる。

 今回川崎重工では開発したDLEを適用した燃焼器で、ドイツのアーヘン工科大学が所有する高温/高圧燃焼試験設備で水素100%の燃焼試験を行った。その結果、NOx発生量を大気汚染防止法の規制値である84ppmを下回る、40ppm以下に抑えられることを確認したという(図2)。

図2 アーヘン工科大学での水素燃焼試験の様子 出典:川崎重工業

 NOxの発生を抑えるには、水や蒸気の噴射して燃焼温度を低く制御するという方法もあるが、燃焼効率が落ちてしまうというデメリットもある。今回、川崎重工が開発したDLEは水や水蒸気を用いないという点も特徴だ。DLEの「D(ドライ)」はこのことを指している。同社は今後DLEのさらなる研究開発を進め、2017年を目標に燃焼器の完成を目指す。同時に燃焼器をガスタービンに搭載した場合の技術確立にも取り組んでいく計画だ。

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