関西電力は5月に実施する予定だった電気料金の値下げを見送った。大津地方裁判所が再稼働禁止の仮処分命令を出したためだが、関西電力が見過ごしている重要な点が2つある。1つは仮処分を申請したのは関西電力の顧客であること、もう1つは発電コストの高い石油火力を使い続けている問題だ。
関西電力は3月11日の記者会見で次のような内容を発表した。
「2月26日の定例社長会見の際、『高浜発電所4号機が本格運転を再開することを前提に、高浜3、4号機の2基の再稼働による火力燃料費等の削減分をお客さまに還元すべく、5月1日から電気料金の値下げを行うこととし、具体的な手続きを開始する』と申し上げました。しかしながら一昨日、大津地方裁判所におきまして、再稼働禁止の仮処分命令が出され、当面、再稼働の見通しが立たない状態となりましたことから、やむを得ず、電気料金の値下げを見送ることといたしました。お客さまには、東日本大震災以降、電気料金の値上げにより、大変なご迷惑をおかけしている中、今回の仮処分命令により、値下げを見送ることとなり、心からお詫び申し上げます。」
関西電力が「心からお詫び申し上げ」ている相手は顧客である。しかし原子力発電所の再稼働禁止を要請したのも顧客であることを真剣に受け止めているのだろうか。顧客からの声を無視する一方で、値下げできない理由を裁判所の命令に限定するような姿勢は、公共サービスを提供する企業として適切とは言えない。
実際には関西電力は原子力発電に固執するあまり、火力発電の設備更新を他の電力会社ほど進めてこなかった。それが大きな要因になって東日本大震災後に2度にわたって電気料金の値上げを実施した(図1)。同様に震災後に2度の値上げを実施した北海道電力も火力発電の設備更新が遅れている。
関西電力が2015年6月に実施した2度目の値上げは燃料費の増大が理由である。2013年5月に実施した1度目の値上げの時に想定した燃料費と比べて、2015年度の燃料費が年間に1253億円も増加する見通しになった(図2)。特に石油火力の燃料費が937億円も増えると予測した。
実際には2015年に入って原油の輸入価格が急落して、その恩恵で関西電力は第1四半期(2015年4〜6月)から黒字に転換している。ただし利益の多くは電気料金に上乗せした燃料費調整額の期ずれによるもので、今後は同様の恩恵を期待することはできない。
関西電力の電源構成を見ると、2014年度の発電電力量のうち石油火力が17%を占めている(図3)。火力の中でも発電効率が高いLNG(液化天然ガス)は46%、燃料費が安い石炭火力は24%である。東京電力の場合はLNG67%、石炭17%で、石油は7%に過ぎない。国全体で見ても石油火力の比率は11%にとどまることから、関西電力の17%は際立って高い。
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