冬には大量の雪が降る高原地帯から遠く離れて、太平洋沿岸にある漁港では波力発電の実証プロジェクトが着々と進んでいる。岩手県の北部に位置する久慈市(くじし)の「玉の脇漁港」が実証実験の場所である。漁港を囲む防波堤を利用して波力発電設備を水中に設置する予定だ(図6)。
すでに漁港の近くにある工場で発電設備の組み立てを完了した。発電機を収容する建屋の下に、水中に設置する鋼製の基礎部分を組み合わせる構造になっている(図7)。全体の重さは80トンにのぼり、その重みで発電設備を海底に固定できる。高さは12メートルある。
巨大な発電設備はクレーンを使って、防波堤に近い水深3メートルの場所に設置する。水中に入る基礎部分の真ん中には、四角形の波受け板(ラダ―)が付いている。この波受け板が振り子状に動いて、上部の建屋内にある発電機を回す仕組みだ(図8)。波受け板の大きさは高さが2メートルで、横幅は4メートルある。
波受け板は海からの波だけではなく、防波堤から戻ってくる反射波も受けて、振り子状に効率よく動く。それに合わせて波受け板の回転軸に連動するシリンダーが動き、モーターを駆動して発電する仕掛けになっている(図9)。
東京大学を中心とするプロジェクトチームは8月中に波力発電設備の設置を完了して、9月から実証運転を開始する計画だ。発電能力は43kW(キロワット)あるが、波の強さは季節や天候によって変動するため、平均で10kW程度の出力を想定している。年間の発電量は8万7600kWhになる見込みで、24世帯分の電力を供給できる。
実証運転は2017年3月まで続けて、発電量のほかに設備の効率的な制御方法などを検証する。波力発電の場合には強い波を受けて設備が破損することもあるため、安全性の確認が重要なテーマになる。実用化には発電コストが高い点も大きな課題だ。
実証用の発電設備の建設費は1億円かかった。プロジェクトチームは実証設備を使って2017年度以降も運転を続けながら、設備の軽量化によるコストダウンに取り組んでいく。2020年代には小型風力発電と同等の発電コスト(1kWhあたり50円程度)を実現したうえで、全国各地の漁港に展開することを目指す。
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