小売電気事業者のサービス戦略、低価格や割引だけでは長続きしない電力自由化で勝者になるための条件(4)

電力会社に対抗する安い料金を設定して、さらにガスや通信とセット割引を実施する事業者が増えている。しかし電力会社が価格を引き下げ、新しい料金プランも開始した。ポイントサービスを付加する戦略にも限界がある。地産地消型の小売モデルのような、料金以外のサービス戦略が重要だ。

» 2016年08月03日 15時00分 公開

連載第3回:「小売電気事業者のチャネル戦略、対面・訪問・ネット販売も有効」

 低圧の小売事業は薄利多売の事業モデルである。いかに料金以外の魅力的なサービスを打ち出し、需要家にメリットを感じさせることができるか。電力会社との競争に勝ち抜く最大の焦点であり、小売事業を長続きさせるうえで極めて重要となる。現状では料金面を含めて、以下のようなサービス戦略が考えられる。

1.従来の電力会社(一般電気事業者)よりも少し安い料金体系を設定する。

2.電力以外のサービスとセットで料金を割り引く。

3.他社のポイントサービスなどの特典を付加する。

4.自社のポイントサービスなどの特典を付加する。

5.独自の電力小売サービスを展開する。

図1 小売電気事業者のサービス戦略

 第1の料金を安くするパターンは、従来の高圧分野を含めて新規参入事業者の多くが採用する最も典型的な手法である。ただし電力会社が料金の単価を引き下げた場合には、戦略の見直しを迫られることになる。加えて電力会社は新しいメニューも相次いで発表している。料金だけに焦点を当てたサービス戦略には限界がある。

 第2のセット割引はガス会社(プロパンガスを含む)や石油会社、通信会社や鉄道会社など、さまざまな業種によるサービス展開が考えられる。当初は需要家を獲得しやすいものの、セット割引の原資を長期に確保できるどうかが課題になる。本業で十分な収益を確保できて、顧客維持のために電力事業では多少の持ち出しを覚悟する、という戦略をとれなければ、長期の事業継続は厳しいものになるだろう。

 第3に挙げた他社のポイントサービスを活用するパターンは、幅広い分野でポイントを利用できる点で需要家のメリットは大きい。とはいえポイントサービスは競争が激しいうえに、自社の売上拡大に直接的に貢献するものではない。電力事業の観点でとらえると、この戦略も長期的に維持・拡大していくのはむずかしいと考えられる。

 これに対して自社でポイントサービスなどの特典を付加する第4のパターンは違う。店舗を運営している事業者であれば、利用者の来店を促すことなどが可能で、会社全体の売上拡大に貢献できるモデルである。電力会社からスイッチング(契約変更)する動機を持たせるうえで十分な効果が期待できる。例えば大手の流通業が主婦層を狙ってポイントの倍率を上げたり、来店時の特典を付けたりすることで、ターゲットの需要家を獲得できる確率が高くなる。

 最後に第5のパターンとして、再生可能エネルギーに特化したモデルや地産地消の電力モデルなど、従来にない小売サービスを展開する方法がある。ふるさと納税と同じ発想で、地域の特産品を電力とセットで提供することも可能である。この戦略は第1・第2のパターンのような料金の叩き合いを避けることができるため、軌道に乗れば長期的に継続しやすい。

 今後は金融商品などとのセット販売や水道を組み合わせた販売モデル、あるいは定額サービスやプリペイドサービスなども始まるだろう。水道では自治体を巻き込んだサービス展開が考えられる。他社より優位なサービスになって、再スイッチングのリスクも最小化できる。

 こうして競争力のあるサービス戦略を展開するには、戦略を支えるための業務を効率化する仕組みとシステムが必要になる。次回からは実際の業務面で取り組むべきポイントを詳しく解説していく。

連載第5回:「電力の小売事業を支える顧客管理業務、契約申込から料金計算まで」

著者プロフィール

平松 昌(ひらまつ まさる)

エネルギービジネスコンサルタント/ITコスト削減コンサルタント。外資系コンピュータベンダーやベンチャー事業支援会社、電力会社の情報システム子会社を経て、エネルギービジネスコンサルタントとして活動中。30年間にわたるIT業界の経験を生かしてITコスト削減支援および電力自由化における新電力事業支援を手がける。Blue Ocean Creative Partners代表


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