農業用水路を活用した小水力発電は、さらに山深い地域にも広がってきた。福井県との県境にある郡上市(ぐじょうし)の石徹白(いとしろ)地区では、小水力発電による集落の再生プロジェクトを進めている。
標高700メートルの集落には100世帯が暮らしていて、人口270人のうち約半数は65歳以上の高齢者だ。過去50年間で人口は4分の1に縮小した。地域の資源を生かした農業の復活と再生可能エネルギーの導入を通じて、全国から子育て世代の移住を促進する。
石徹白地区では農業用水路を利用した小水力発電所が4カ所で稼働している。そのうち発電能力が大きいのは「石徹白清流発電所」と「石徹白番場清流発電所」の2カ所で、それぞれ最大63kWと125kWの電力を供給できる(図5)。両方を合わせて年間の発電量は100万kWhになり、一般家庭の280世帯分に相当する。現在と比べて世帯数が3倍近くに増えても電力を自給自足できる。
2カ所の小水力発電所を建設するために、県が農業用水路を改修して1.6キロメートルの導水路を整備した。1つ目の清流発電所は郡上市が発電事業者になって2015年6月に運転を開始している。2つ目の番場清流発電所は地元の農業協同組合が県と市の補助を受けながら2016年4月に運転開始にこぎつけた。子育て世代の移住者も徐々に増えている。
内陸にある岐阜県には木曽川のように太平洋に向かって長い距離を流れる川と、北へ向かって日本海に注ぐ川の2種類がある(図6)。岐阜県の北部から富山県を通って日本海まで流れる神通川(じんづうがわ)の流域には、高い山に囲まれて大小さまざまな水力発電所が運転中だ。
北部の飛騨市を拠点とする神岡鉱業は明治時代から銅や亜鉛を掘削して精錬事業を続けてきた。自家用と売電用に10カ所の水力発電所を運転しているが、老朽化が進んだことから5カ所の設備の更新に取り組む。すべての更新が完了すると発電能力が1800kW増えて、10カ所の合計で4万kW近くに達する予定だ。総事業費は220億円にのぼる。
その中で規模が最も大きいのは「金木戸(かなきど)発電所」で、1953年に運転を開始して60年以上を経過した(図7)。従来の発電能力は1万8000kWだったが、設備を更新して1万8252kWに増強する。2017年8月に運転を再開する予定だ。このほかに「跡津(あとつ)発電所」が1万1850kWから1万3026kWに増強して、2018年5月に運転を再開することになっている。
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