農業用水路に小水力発電が広がり、太陽光とバイオガスで作物を育てるエネルギー列島2016年版(22)静岡(2/4 ページ)

» 2016年09月20日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

2台の水車発電機を水量に合わせて運転

 もう1つの「伊達方発電所」は発電能力が142kWで、年間に91万kWhの電力を供給できる(図4)。発電に利用できる水量は西方発電所とほぼ同じだが、分水工による水流の落差が0.6メートル低い分だけ発電能力が小さくなっている。この点を除けば発電設備の構成や導入した水車発電機は2カ所ともに同じだ。

図4 「伊達方発電所」の全景(画像をクリックすると拡大)。出典:静岡県交通基盤部

 水車発電機には「水中タービン水車」を採用した。水を供給するヘッドタンクの下部に設置して、垂直に流れ込む水の中で水車を回転させる方式だ(図5)。水中で稼働するために、小水力発電で問題になる騒音や振動を抑えられる。加えて水車発電機の上部にある「シリンダーゲート」を昇降させるだけで運転の開始・停止を操作できることも運用面のメリットが大きい。

図5 「水中タービン水車」の構造(左)、設置状態(右)。出典:静岡県交通基盤部

 2カ所の小水力発電所では用水路を流れてくる水量が季節によって大きく変動する。水量の変動に合わせて発電効率を高めるために、出力の違う2台の水車発電機を設置して、運転パターンを変える方法を採用した。水量が多い5月から8月は大小2台をフル稼働させる一方、それ以外の季節は水量に応じてどちらか1台だけを運転させる(図6)。水車発電機の運転と停止を簡単に切り替えられる利点を生かしている。

図6 水中タービン水車の運転パターン。縦軸:水量(立方メートル/秒)、横軸:月/日。出典:静岡県交通基盤部

 発電所の建設費は2カ所の合計で11億5000万円かかった。国が50%、県が25%、用水路を運営する地元の土地改良区が25%を負担して、土地改良区が発電所を所有・運営する体制だ。発電した電力は静岡市を拠点に電力小売事業を展開する鈴与商事が20年間にわたって固定価格で買い取ることが決まっている(図7)。

図7 再生可能エネルギーの電力を地産地消するモデル。出典:静岡県交通基盤部

 鈴与商事は県内の自治体や企業、商業施設や一般家庭にも電力を供給して、再生可能エネルギーの地産地消を推進していく。一方で土地改良区は売電で得た収益の一部を用水路の維持管理費にあてて負担を軽減する狙いだ。地域の資源を活用してエネルギーの地産地消と農業の効率化を図るモデル事業になる。

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