再生可能エネルギーを農業に生かす取り組みは小水力発電にとどまらない。大井川の上流に広がる川根本町(かわねほんちょう)は南アルプスの山ろくにあって、町の面積の94%を森林が占めている。日本茶の生産と林業が盛んな地域だが、町内の農地ではブルーベリーを栽培しながら太陽光発電を実施するソーラーシェアリングが2015年11月に始まっている(図8)。
面積が300平方メートルある傾斜地に高さ2.6〜3メートルの支柱を立てて、108枚の細長い太陽光パネルを設置した(図9)。パネル1枚あたりの発電能力は112ワットで、全体で12kWになる。年間の発電量は1万3000kWhを見込んでいて、42万円の売電収入を得られる想定だ。パネルによる遮光率を27%に抑えることで、ブルーベリーの収穫量は地域の平均値と同程度になる見通しを立てている。
発電事業を運営するのは地元の民間企業や団体が共同で設立した川根スカイエナジーである。建設費の378万円は市民の共同出資で集めた。出資者には年利1%の金利と地域の特産物を還元しながら10年後に返済するスキームだ。日本で初めて市民の共同出資で実施するソーラーシェアリングとして成果が注目されている。
川根本町から大井川を下った菊川市では、トマトの生産現場でバイオガス発電プラントが2016年4月に運転を開始した。大井川用水の小水力発電事業で電力を買い取っている鈴与商事が建設・運営している。同じグループに属する農業生産法人が菊川市内で展開する大規模なトマト栽培ハウスの隣接地に建設した(図10)。
トマト栽培ハウスに併設した食品加工の工場では、トマトジュースやトマトピューレなどを製造している。工場の製造工程で発生する食品廃棄物と地域で排出する刈り草を発酵させてバイオガスを作る。そのバイオガスを燃料に利用して120kWの電力と熱を供給できる(図11)。年間の発電量は105万kWhを見込んでいて、鈴与商事が小売電気事業者として地域で販売する体制だ。
このプラントの役割はエネルギーを供給するだけでは終わらない。バイオガスを発生させた後の消化液から肥料を製造して農業に役立てるほか、バイオガスを燃焼させた後の排気ガスからCO2(二酸化炭素)を回収するシステムも導入する計画だ。CO2はトマト栽培ハウスに供給して光合成を促進させる。農業と再生可能エネルギーを組み合わせて地域の資源を循環させる取り組みである。
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