電荷寿命1000倍、有機太陽電池の“究極構造”を実現太陽光

京都大学らの研究グループは、周期性の細孔空間を持つ多孔性物質を利用することで、有機太陽電池の究極的な理想構造とされていた構造体を実現。有機太陽電池をはじめとするエネルギー変換デバイスの高効率化に貢献する成果だという。

» 2018年05月08日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 京都大学の研究グループは2018年4月、仏高等師範学校(ENS)の研究グループと協力し、周期性の細孔空間を構造内に有する多孔性物質を利用することで、これまで有機太陽電池の究極的な理想構造とされてきた、2種類の異なる分子が規則的かつ交互に配列した構造体を作り出すことに成功したと発表した。有機太陽電池をはじめとするエネルギー変換デバイスの高効率化に貢献する成果だという。

 有機太陽電池は光によって電子を放出し、プラスの電荷を帯びるドナー分子と、電子を受け取りマイナスの電荷を帯びるアクセプター分子で構成される。これらの分離された電荷は、電流の担い手となるが、非常に不安定である。発電効率を高めためには、電荷分離状態を効率よく作り出し、長く保つことが重要で、そのためには2種類の分子をどのように配列するかがポイントとなる。

有機太陽電池のイメージ図 出典:JST

 これまで、相互貫入型構造と呼ばれる、ドナーとアクセプターが規則的かつ交互に配列した構造体は、高効率に長寿命の電荷分離状態を作り出せるため、有機太陽電池の材料として究極的な理想構造であるとされている。しかし一般的にドナーとアクセプターはランダムに混ざり合ってしまうため、その配列を精密に制御することは難しいという課題があった。

 一方、研究グループは以前から、高分子を多孔性金属錯体(MOF)の細孔空間内に拘束することで、高分子鎖の配向方向や集積数を分子レベルで精密に制御できることを見いだしていた。MOFは構成要素を適切に選択することで、細孔のサイズや形を合理的にデザインでき、さらにさまざまな光電子機能部位を骨格中に規則的に配置させることもできる。

 そこで今回、アクセプター部位を有したMOFとドナー性の高分子を複合化し、MOFの骨格構造を反映したドナーとアクセプターが分子レベルで規則的に交互に並んぶ構造体「MOF/ポリマーナノハイブリッド材料」の作製に取り組んだ。

 MOFはチタンイオンとメチレンジイソフタル酸を混合し、酸化チタン部位を有するものを新たに合成した。このMOFは構造解析の結果、ごく細い物質構造である酸化チタンナノワイヤと有機部位で構成され、整列した1次元ナノ空間を持つことが分かった。光伝導度測定を行ったところ、酸化チタンナノワイヤの太さは1nm(ナノメートル)以下と極細でありながら、太陽電池材料として注目されている酸化チタンと同様の良好な光伝導性を持つことが分かったという。

 次にMOFの1次元ナノ空間内で、ドナー性高分子であるポリチオフェンを合成し、ドナーとアクセプターが分子レベルで規則的かつ交互に配列した構造体であるMOF/ポリマーナノハイブリッド材料を作り出すことに成功した。

ドナーアクセプター交互配列構造体のイメージ図 出典:JST

 合成した構造体の電荷寿命は研究グループの調査によると1ms(ミリ秒)を超え、これはこれまで報告されているものよりも約1000倍長いという。これはMOF/ポリマーナノハイブリッド材料より長寿命電荷分離状態を作り出し、電荷が飛躍的に安定したためとしている。

 研究グループは今回の成果について、MOFの骨格構造を反映させることで、ドナーとアクセプターの集合状態を分子レベルで合理的かつ緻密に作り出すことができることを初めて実証したとし、有機太陽電池などの光電子デバイスの高効率化に向けた材料設計の有用な指針になるとしてる。今後はMOF/ポリマーナノハイブリッド材料を用い、実際にデバイスの作製に取り組む計画だ。

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