全固体リチウム電池を高用量化、多孔構造のシリコン負極膜蓄電・発電機器

物質・材料研究機構は、次世代電池として期待の全固体リチウム電池の高容量化に貢献する技術として、ナノ多孔構造を導入したアモルファス・シリコン負極膜が安定かつ高容量で動作すること明らかにしたと発表した。

» 2018年05月16日 07時00分 公開
[長町基スマートジャパン]

 物質・材料研究機構(NIMS)は、全固体リチウム電池向けのナノ多孔構造を導入したアモルファスシリコン負極膜を開発したと発表した。安定かつ高容量で動作し、全固体リチウム電池の高性能化に貢献する成果だという。

 シリコンは負極材としての理論容量密度が4200mAh/g(ミリアンペアアワー毎グラム)、体積容量密度で2370mAh/cm3(ミリアンペアアワー毎立方センチメートル)であり、これらの値は現行の黒鉛負極と比較すると重量容量密度で約11倍、体積容量密度で約3倍と非常に大きい。そのため、電気自動車用電池の負極材として実現されれば、航続距離の大幅な延伸が可能になると期待されているという。

ヘリウムガス雰囲気でスパッタ製膜を行うことで得られたナノ多孔アモルファス・シリコン負極膜の断面透過電子顕微鏡像 出典:NIMS

 しかしシリコンは、充放電時のリチウムの出入りにともなって体積が大きく変化することから、充放電の繰り返しにより壊れやすく、容量が低下していってしまう問題があった。さらに、液体の電解質は充電の度にシリコン表面で分解されてしまうため、容量低下の問題がさらに顕著なものとなっていた。そのため、充放電で壊れにくいシリコンの開発と、シリコン表面で分解されない電解質内での安定動作の実証が強く望まれていた。

 そこでNIMSは、結晶シリコンより体積変化に強いアモルファスシリコンを母材とし、そこへナノ多孔構造を導入したシリコン負極膜を採用した。さらに、液体の電解質に替えてシリコン表面で分解が起こらない固体電解質と組み合わせることで、100回充放電を繰り返しても容量の低下がほとんど起こらないことを突き止めた。

 面積当たりの容量がほぼ同じアモルファスシリコン無孔膜と比較したところ、無孔膜では100サイクル後に53%の容量が失われるのに対して、ナノ多孔膜では93%の容量を維持した。シリコン負極のサイクル寿命を向上させる試みはこれまでにも報告されているが、材料を過度に微粒子化した結果、面積・重量当たりの容量が小さなものになることが多々あったという。それに対して今回の手法は、2.3mAh/cm2(ミリアンペアアワー毎平方センチメートル)と実用的な面積当たりの容量を示すシリコン負極が、3000mAh/gと理論値に近い高い容量密度で動作した状態で、容量低下を抑制することに成功した。

 研究グループは今回の成果について「高容量なシリコン負極が全固体電池内で安定に動作することが明らかになったことで、エネルギー密度の点でも現行リチウムイオン電池を超える可能性が広がった」としている。電気自動車用の電池だけでなく再生可能エネルギー電源向けの蓄電池システムや家庭用蓄電池に大幅な性能向上をもたらすことも期待されるという。

 なお、同研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「リチウムイオン電池応用・実用化先端技術開発事業(P12003)」の支援を受けて行われた。

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