性能5倍の「蓄電池」、自動車変えるリザーバ型蓄電・発電機器(1/5 ページ)

新エネルギー・産業技術総合開発機構と京都大学は2016年3月28日、「リザーバ型」と呼ぶ革新型蓄電池の研究成果を3つ発表した。既存のリチウムイオン蓄電池を改善するだけでは、ガソリン車並の走行距離が可能な電気自動車の実現には至らず、リザーバ型が必要になるという。

» 2016年03月31日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 「1回の充電当たりの走行距離という意味で、ガソリン車と同等の電気自動車を実現しようとすると、現在の5倍の500ワット時/キログラム(Wh/kg)というエネルギー密度を備えた蓄電池が必要だ。だが、現在のリチウムイオン蓄電池を改良しても300Wh/kg程度が限界だろう。これは蓄電池の充放電動作として『インサーション型』を採っているためだ」(京都大学産官学連携本部の特定教授である荒井創氏)。

 蓄電池に対する要求は数多い。容量、パワー、寿命、小型化、動作温度、コスト……。中でも自動車向けの蓄電池が難しい。自動車に搭載するには軽くなくてはならず、同時に容量が必要だからだ。蓄電池1kg当たり、どの程度のエネルギー(Wh)を蓄えられるかが目標となっている。

 「蓄電池の基礎研究を進めるRISINGプロジェクト*1)では、低価格化や大容量化は目指さず、自動車に必要なエネルギー密度を目標に据えた。インサーション型ではなく、『リザーバ型』*2)という革新型蓄電池を研究し、500Wh/kgを見通す300Wh/kgの電池技術の検証ができた。今後は300Wh/kgをリアリティのある電池で確認し、500Wh/kgへの検証を進めたい」(荒井氏)*3)

*1) 革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISINGプロジェクト)の目標は、時間も手間も掛かる新しい蓄電池の基礎研究を一気に進めようというもの。「革新型蓄電池を開発しようとすると、1社、1大学の力では無理だ。そこで、(国内の自動車メーカーを含む)13大学4研究機関13企業がオールジャパン体制で集まり、現在の5倍のエネルギー密度実現を目指した」(荒井氏)。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と産業技術総合研究所(AIST)、京都大学が推進し、研究拠点を京都大学とAISTの関西センターに置いた。
*2) リザーバ(reservoir)とは容器やタンクのこと。
*3) NEDOは2016年1月に「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発」(事業期間は2016年度から5年間)の公募を募っており、京都大学などが応じている。

現在の延長では実現不可能

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2013年に「NEDO二次電池技術開発ロードマップ2013(Battery RM2013)」を公開している(図1)。ここでは2030年ごろに500Wh/kgというエネルギー密度が示されている。問題なのはこのような蓄電池を実現するための要素技術の欄が空白になっており、ただ、「ブレークスルーが必要」とあることだ。

図1 自動車用蓄電池のロードマップ(部分) 強調は本誌。出典:NEDO

 なぜ、空白なのか。これは荒井氏のコメントにあるように、現在のリチウムイオン蓄電池が採るインサーション型では実現ができないからだ。

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