性能5倍の「蓄電池」、自動車変えるリザーバ型蓄電・発電機器(2/5 ページ)

» 2016年03月31日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

サイクル寿命は抜群だが、容量に制約

 インサーション型では、図2の左側にある負極と、右側の正極の間をリチウムイオン(Li)が移動することで充放電動作を実現している。リチウムイオンが正極や負極の内部に潜りこみ(インサーション)、蓄電池として動作する。「インサーション型のリチウムイオン蓄電池では入れ物(電極)がリチウムイオンの移動によって変形しないため、サイクル特性(寿命)がよくなる*4)。ただし、入れ物があるために重くかさばってエネルギー密度に制約が生まれる。そこで、RISINGプロジェクトでは新たなリザーバ型の研究を進めた」(同氏)。

*4) リチウムイオン蓄電池が今日の蓄電池技術の主流となったのは、インサーション型を開発できたためだと言えるだろう。1982年に三洋電機の研究者が有機電解液とグラファイト負極の特許を出願しており、リチウムイオン蓄電池は日本発の技術と捉えることが可能だ。インサーション型では現在、電極と挿入・脱離を起こすリチウムイオンの密度を高める電極材料の研究が進んでいる。例えば負極に多用されているグラファイトの代わりにシリコンや硫黄を用いる技術だ。しかし、これらの工夫でも理論限界がある。RISINGプロジェクトではこのような電極材料の研究はしていない。

図2 インサーション型リチウムイオン蓄電池の動作 出典:NEDO、京都大学

リザーバ型をイチから開発

 現在、リザーバ型で動作する蓄電池はほとんど存在しない。そもそも蓄電池として実用化するのは難しいと考えられてきた。実用化ではインサーション型がはるか先を走っているものの、図1にあるように限界が見えており、ゴールへは到達できない。

 そこで、潜在能力をもつリザーバ型の研究を全くのスタート地点から開始した形だ。以下に紹介するRISINGプロジェクトの成果が実用性から遠いように見えるのはこのためだ。まずは具体的な電池に仕上げる前の基礎研究を固める必要があった。

 リザーバ型蓄電池では、インサーション型とは異なり、イオンの入れ物が必要ない。金属そのものの溶解析出反応を利用するためだ。入れ物の分だけ重量を減らすことができ、エネルギー密度が高まる。しかし、欠点もある。研究を開始する以前の段階では、サイクル特性(寿命)があまりにも悪かった。充放電ができなければ蓄電池としては期待できない。

 RISINGプロジェクトではサイクル特性を高める研究を進め、以下に紹介する3つの成果を上げた*5)。アニオンレセプターによる特性改善、金属硫化物電極の反応機構の解明、多電子移動が可能なハロゲン化蓄電池の提案だ。

*5) 蓄電池のエネルギー密度を高めるためには単位重量当たりの容量を増やす他、単セルの出力電圧を高める道もある。「電圧をn倍にしてもエネルギー密度はn倍よりも小さくなる。さらに電解液やケースなどに(分解などの)悪い影響が現れる。容量を増やそうというRISINGプロジェクトの研究ではこのような制約が少ない」(荒井氏)。

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