性能5倍の「蓄電池」、自動車変えるリザーバ型蓄電・発電機器(5/5 ページ)

» 2016年03月31日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]
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両極端のイオンの性質に取り組む

 ハロゲンのイオンとして、塩化物イオンとフッ化物イオンが候補に挙がったものの、この2つは性質が全く違う。電解液に対する溶けやすさが大きく異なるため、異なる研究アプローチが必要だった。

 塩化物イオンは電解液として有機溶媒を選んだときであっても、溶け出してしまう。「溶け出さないようにするために溶媒中の塩を高濃度化し、平衡条件を変えて抑制する手法を確認した。もともと塩化物イオンを溶かしこみにくい電解質も検証した。2つの条件を同時に利用してもよい」(同氏)*7)

 このようにして、高利用率、長寿命化への糸口をつかんだ。

 フッ化物イオンを利用したときの課題は、塩化物イオンとは逆だ。水に対しても液体電解質に対してもほとんど溶けない。そこで溶液を使わない全固体電池に取り組んだ。「フッ化物イオンを伝導する固体電解質の研究はこれまでほとんど進んでいなかったものの、今回はモデル薄膜セル(図7左)を作り、高い充放電性能(図7右)を示すことができた」(同氏)。

*7) 水溶液系の電解液を用いる空気亜鉛空気電池では、電解液に亜鉛が過剰に溶けるという塩化物イオンと似た課題がある。今回の手法は空気亜鉛電池の性能改善(高利用率、長寿命)にも利用されているという。

図7 フッ化物全固体型薄膜セルの構造(左)と薄膜セルのサイクル特性(右) 出典:NEDO、京都大学

リザーバ型蓄電池が進む道

 リザーバ型蓄電池を実用化するには、電解(液)に反応種(電池反応に必要な物質)が適度に溶解することがどうしても必要だ。今回の3つの成果はここに焦点を当てている。反応種が溶けない(フッ化物イオン)、過剰に溶けて散り散りになる(塩化物イオン、硫黄)という課題を解決する糸口を見付けることができた。

 リザーバ型電池を実用化するために今後必要なことが2つある。まずは冒頭の荒井氏のコメントにあるように、エネルギー密度をさらに高めること。次に、車載用蓄電池に必要な出力特性(パワー性能)と安全性を高める研究開発だ。2030年に向けた実用化に期待が掛かる。

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