集中型エネルギーシステムから分散型エネルギーシステムへ。電力系統の在り方が、いま改めて問われている。フランスの重電大手・シュナイダーエレクトリックが、同国のエネルギー大手・エンジーとともに展開する、シンガポールのマイクログリッド実証プロジェクトを訪ねた。
2018年9月6日、北海道胆振地方を震源とする地震により、北海道全域が停電した。2011年3月11日に発生した東日本大震災によって、東北・関東にわたる広範な地域に、大規模停電が発生したことを思い出した方も多いだろう。一極集中型エネルギーシステムのぜい弱性が、改めて問われている。
今回のケースでは、北海道電力が供給する電気の約半分を担っていた「苫東厚真火力発電所」の緊急停止によって、電力系統=送配電網(グリッド)を同じくする他の発電所も連鎖的に停止してしまったことが事態を悪化させた。このようなリスクを回避するためには、エネルギーネットワークに自立分散的なシステムを組み入れていくことが極めて重要だ。
海外においても、相次ぐ自然災害やテロの脅威などを背景に、エネルギーシステムのレジリエンス(強じん性)は共通の社会的課題となっている。こうした中にあって、いま国際的にも期待が高まっているのが、分散型電源による地域社会基盤である「マイクログリッド」だ。
マイクログリッドとは、文字通り“小さな送配電網”であり、自立分散型の電源(発電設備)と電力の消費者(需要家)をつなぐ比較的小規模なエネルギーネットワークのことを指す。自立分散型電源としては、主に太陽光発電や風力発電、バイオマス発電などの再生可能エネルギー発電設備が想定されている。火力や原発などの大規模発電所で発電し、送配電網を通じて広域供給を行う従来型の一極集中型システムに比べて、エリアが限定されたマイクログリッドなら各種災害によるリスクは低減する。
一方で、かつてマイクログリッドは、発電コストや電力の安定性に問題があると見なされてきた。しかし、再生可能エネルギーのグローバルな導入拡大を背景に、いまや太陽光と風力は、火力や原発を抑えて発電コストの最安値を競っている。多様な再生可能エネルギーと蓄電システムの組み合わせが可能になったことや、需給管理技術が向上したことなどにより、電力の安定性も飛躍的に高まっている。マイクログリッドの普及に向けて、既に足かせの多くは取り払われているのだ。
シンガポールのセマカウ島は、マイクログリッドの国際的な実証試験場といった様相を呈している。シンガポール政府が主導して、各国企業のマイクログリッド実証プロジェクトを呼び込んでいるためだ。「Renewable Energy Integration Demonstrator Singapore)(REIDS)」の名のもとに、セマカウ島には今日、事業者の異なる8つのプロジェクトが進行している。この度、取材に訪れたフランスの重電大手・シュナイダーエレクトリックと、同国のエネルギー大手・エンジーによるマイクログリッドもその一つ。
セマカウ島はもともと、洋上のゴミ埋め立て地として、国土の狭いシンガポールにあって重要な役割を担ってきた。シンガポール本島の8km(キロ)南に位置する、ゴミ最終処分島だ。アジアにおけるクリーンエネルギーの拠点を標榜するシンガポール政府は現在、この島を次世代エネルギーシステムの先進地とすべく、マイクログリッドの各種プロジェクトを推し進めているのだ。
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