有機薄膜太陽電池の変換効率を向上、新しい半導体ポリマーを開発太陽光

広島大学らの共同研究チームが、次世代太陽電池として期待される有機薄膜太陽電池の高効率化につながる成果を発表。製造材料の1つである新しい半導体ポリマーの開発に成功した。

» 2020年01月15日 07時00分 公開
[スマートジャパン]

 広島大学、大阪大学、京都大学、千葉大学、高輝度光科学研究センターらの共同研究チームは2020年1月、次世代太陽電池として期待される有機薄膜太陽電池(OPV)の性能を高められる、新しい半導体ポリマーを開発したと発表した。

 有機薄膜太陽電池は、半導体ポリマーをp型半導体材料、フラーレン誘導体をn型半導体材料として用いる。半導体材料を含んだインクを塗布することで作製できることから、低コストかつ低環境負荷なプロセスで製造でき、大面積化が容易という特徴を持つ。軽量かつ柔軟であることに加え、半透明にすることが可能で、センサーやモバイル・ウェアラブル端末、窓、ビニールハウス向けなど、現在普及している無機太陽電池では実現が難しい分野に適用できる、新たな電源として注目されている。

 実用化の課題となっているのが、変換効率と耐久性の向上だ。有機薄膜太陽電池は光、熱、酸素、水分などにより劣化することから耐久性の低さが指摘されている。さらに、幅広い分野への適用を目指すためにも、変換効率の向上が求められている。

 今回研究グループでは変換効率の向上を目指し、有機薄膜太陽電池の材料となる新たな半導体ポリマーの開発に取り組んだ。有機薄膜太陽電池に適した半導体ポリマーを開発するためには、ポリマーの分子軌道や結晶性、分子配向を制御することが重要になる。このような半導体ポリマーの性質を制御する上で、フッ素原子の導入が有効であることが知られているが、導入する方法は限られていたという。

 そこで共同研究チームは、広島大学の研究グループが以前に開発した、当時世界最高レベルの変換効率を示したという「PNTz4T」という半導体ポリマーと、大阪大学の研究グループが最近新たに開発したフッ素導入技術の融合による、新しい半導体ポリマーの実現を目指した。

 その結果、PNTz4Tの化学構造に対して、これまで不可能だった位置にフッ素を導入することに成功。これにより、半導体ポリマーの分子軌道エネルギーの準位を、有機薄膜太陽電池に応用する上でより理想的な準位に制御することができ、変換効率を向上させることに成功した。さらに、フッ素原子を導入する位置によって、半導体ポリマーの分子配向が大きく異なり、太陽電池の変換効率につながる、電荷輸送や電荷再結合に影響を及ぼすことも明らかにした。

PNTz4Tの化学構造とフッ素の導入位置 出典:JST

 今後はさらに異なる位置へのフッ素導入や、分子軌道エネルギーの準位が低下しても分子配向などに影響を与えない原子や官能基の導入技術の開発により、電流や電圧に悪影響を与え、変換効率が低下する電荷再結合の抑制に取り組む方針だ。また、今回適用したフッ素導入の技術は、他の半導体ポリマーに応用することも可能であり、有機薄膜太陽電池のさらなる高効率化にも寄与できるとしている。

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