脱炭素社会の切り札となるか――水素エネルギー活用の最前線を巡る(2/3 ページ)

» 2021年01月25日 07時00分 公開
[廣町公則スマートジャパン]

水素で再エネを“100%使い切る”ことが可能に

 最初に訪れたのは、山梨大学燃料電池ナノ材料研究センター。水素エネルギー利用の核となる燃料電池の研究開発を産業界と連携して進めている施設だ。燃料電池(Fuel Cell)とは、水素を燃料にして、空気中の酸素との電気化学反応によって生まれるエネルギーを使い発電する装置のこと。電池とはいっているが、その働きは発電だ。一般には、トヨタのMIRAIなど燃料電池自動車(FCV)の基幹装置として知られるところだろう。水素自動車とも称されるFCVは、搭載した水素タンクから燃料電池に水素を送り、燃料電池で発電した電気でモーターを動かして走っている。

山梨大学 燃料電池ナノ材料研究センター

 燃料電池を使った水素発電による排出物は水だけであり、有害な窒素酸化物(NOx)などを出さない。発電効率は一般的な火力発電よりはるかに高く、将来的にはさまざまな用途への適用が期待される。そして、水素と酸素から電気と水をつくる技術は、水の電気分解(水電解)により水素と酸素をつくる技術にも直結する。それは、カーボンニュートラルの実現に向けて、水素が重要視される理由の一つともなっている。同センター長の飯山明裕氏は、脱炭素社会における水素の役割を次のように話す。

山梨大学 燃料電池ナノ材料研究センターの飯山明裕氏

 「水素には、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーによる電力の変動分を吸収する力があります。太陽光発電や風力発電の電気が余ってしまうような時に、過剰な変動分の電力を電気分解で水素にすることで、100%使い切ることができるのです。余った電気を水素に替えて吸収してくれる事業者がいれば、発電会社は風車を止めずに発電し続けることができます。脱炭素社会の実現には再生可能エネルギーの導入拡大が不可欠ですが、その弱点を補い、無駄なく安定的に使いこなしていくために、水素は大変重要な役割を担っているのです」(飯山氏)。

 再エネ電力を水素に換えて貯蔵する、P2G(Power to Gas)。水素は必要に応じて、再び電気に変換することができるので、蓄電池のような働きをすることになる。しかも、水素なら蓄電池よりも大量に貯蔵でき、自然放電することもないので、長期的に貯めておくにも適しているという。そして水素なら、ボンベなどに詰めて輸送することも容易だ。同センターでは、県内企業とも連携し、水素の製造・貯蔵・輸送・利用における新産業創出を目指している。

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