燃料電池の白金コストを大幅削減、高性能触媒の高効率な合成に成功蓄電・発電機器

産業技術総合研究所、先端素材高速開発技術研究組合、宇部興産らの研究グループが体高分子型燃料電池(PEFC)向けの高性能なコアシェル型触媒の合成に成功したと発表。高効率な合成手法の確立にも成功し、固体高分子型燃料電池の普及課題となっている高い白金コストの大幅な低減に寄与する成果だという。

» 2021年11月18日 06時00分 公開
[スマートジャパン]

 産業技術総合研究所、先端素材高速開発技術研究組合、宇部興産らの研究グループは2021年11月15日、NEDOプロジェクトにおいて固体高分子型燃料電池(PEFC)向けの高性能なコアシェル型触媒の合成に成功したと発表した。高効率な合成手法の確立にも成功し、固体高分子型燃料電池の普及課題となっている高い白金コストの大幅な低減に寄与する成果だという。

 水素で発電するクリーンな電源システムとして注目されている固体高分子型燃料電池。そのエネルギー変換効率をより向上させるためには、正極での酸素還元反応の活性を高める必要がある。このため正極の触媒には触媒活性の高い白金を採用するのが一般的だが、白金は高価で資源量も少ないため、使用量を大幅に低減しながらもエネルギー変換効率を向上させる手法の確立が求められている。

 そこで近年は、触媒粒子の外表面(シェル)部分のみに選択的に白金を存在させ、粒子の内部(コア)部分を他の金属で置き換えた構造を持つコアシェル型触媒により、白金利用効率の向上を目指す研究が活発に行われている。しかしコアシェル型触媒の合成法として普及している「銅−アンダーポテンシャル析出(Cu-UPD)法」は工程が非常に複雑で、生産性が低いことが実用化に向けた障壁となっていた。

 そこで研究グループはNEDOプロジェクトにおいて、カソード触媒の白金使用量の大幅な削減を可能とするコアシェル型触媒を効率的に合成する技術の開発に取り組んできた。その結果、今回、1日当たり数十種におよび各種コアシェル型触媒の連続・自動合成が可能な、ハイスループットフロー合成装置を用いてプロセス条件の最適化を迅速に実施することで、Cu-UPD法で合成した触媒に匹敵する性能を持つ触媒の合成に成功。さらに、今回確立した条件を2020年度に開発した合成法に応用した結果、Cu-UPD法に匹敵する活性、構造を持つ触媒の連続合成に成功した。

ハイスループットフロー合成装置 出典:産総研

 Cu-UPD法に比べ、ラボレベルで10倍以上高い生産性が合成手法で、スケールアップが容易であるというフロープロセスの特徴から、今後さらなる生産性の向上も期待できるという。

 今回の研究を管轄しているNEDOの「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」では、材料開発のスピードを大幅に向上させるための材料設計プラットフォーム(MDPF)の開発を進めている。研究グループでは今後、さらなる高性能な触媒の開発を目指し、このMDPFの一部を成すハイスループット自動合成装置の活用による、迅速かつ効率的なデータ蓄積、およびマテリアルズ・インフォマティクスを活用した材料開発を進める方針。これにより、白金の利用効率の向上を可能にする新規触媒開発を加速させ、コアシェル型燃料電池触媒の実用化を目指すとしている。

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