サプライチェーンの脱炭素化の鍵となる「Scope3 排出量」、その算定手順と対策事例：TCFD提言を契機とした攻めのGX戦略（2）（1/3 ページ）

TCFD提言を契機とした企業のGX（グリーントランスフォーメーション）の実現に向けた方策について解説する本連載。第2回では、TCFD対応の一つでありサプライチェーンにおける温室効果ガス排出量を指す「Scope3排出量」について、具体的な対応の手順について解説する。

[アビームコンサルティング 産業インフラビジネスユニット ダイレクター 松本 仁志，スマートジャパン]

加速するGXの潮流

　2022年6月に岸田政権が「新しい資本主義」の実行計画案を公表し、4つの重点投資分野の1つとしてGX（グリーントランスフォーメーション）¹が挙げられた。150兆円以上のGX投資を先導するために「GX経済移行債（仮称）」を発行し、民間長期投資を支援することで、脱炭素と経済成長を両立する新たな成長戦略という位置づけだ。

　また、新たな金融手法を組み合わせて世界のESG資金を呼び込む「GX実行会議」の新設も検討されている。GXは世界的な潮流であり、欧州委員会は2021年2月の段階でGXやDX（デジタルトランスフォーメーション）のための研究開発費として、100億ユーロを拠出することを発表済みである。

前回は、コーポレートガバナンスコードの改定をきっかけにTCFDへの対応を検討する企業が増えてきたことを受けて、シナリオ分析を中心に取り組み案を紹介した。今回からはTCFD対応を契機にGXの潮流に乗り、企業価値の向上につなげる取り組みについて私見を述べたい。

1.Green Transformation、脱炭素と経済成長が両立する経済社会システム全体の変革を目指すこと

「Scope3排出量」とは何か

　まず今回はTCFD対応の一つである、サプライチェーンからの排出量の把握・削減を通じて、強固なサプライチェーンを構築する取り組みを紹介したい。

　サプライチェーンとは、原料調達・製造・物流・販売・廃棄等、事業活動における一連の流れ全体を指し、そこから発生するGHG排出量がサプライチェーン排出量である。このサプライチェーン排出量は「Scope3排出量」とも呼ばれ、名前を聞いたことがある方も多いと思われる。固有名詞的に使われることが多いこのScope3排出量であるが、当然Scope1、2があっての3であり、正式には「GHGプロトコル² Scope3」という。

　GHGプロトコルでは図1に示す通り、事業者自らによる温室効果ガスの直接排出（燃料の燃焼、工業プロセス）をScope1、他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接排出をScope2、それ以外の自社を中心とした上流下流のサプライチェーン全体からの間接排出をScope3と区分している。

図1　サプライチェーン排出　イメージ図　出典：環境省物語でわかるサプライチェーン排出量算定（https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/Supply-chain_A3.pdf）

　サプライチェーン排出と似た概念として、製品を対象として原料調達・製造・物流・販売・廃棄までのGHG排出量を評価する「製品のLCA（ライフサイクルアセスメント）」がある。サプライチェーン排出量はいわば「組織のLCA」と考えることもできる。

　Scope3排出量は、製品だけではなく組織のサプライチェーン上の活動に伴う排出量を算定対象とし、それ故に企業活動全体を管理することにもつながるため、企業の環境経営指標や機関投資家の質問項目として使用される動きが見られる。この背景には、経済・リスクの側面からもサプライチェーン排出量の把握・管理が重視されていることが考えられる。

図2　Scope3算定基準、製品LCA算定基準　出典：環境省　サプライチェーン排出量の算定と削減に向けて（https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SC_syousai_all_20220317.pdf）

　Scope3の算定基準³は先述した製品のLCA算定基準と同時に2011年10月に発行されている。環境省のサイトではこの基準に基づく算定ガイドラインをはじめ各種参考資料が日本語で取りまとめられており、興味のある方は是非一度ご覧になっていただきたい。

2.環境シンクタンクWRI（World Resources Institute：世界資源研究所）とWBCSD（World Business Council for Sustainable Development：持続可能な開発のための世界経済人会議）が主導し、各国政府機関も関与して開発された温室効果ガス排出量算定の基準。https://ghgprotocol.org/
3.「Corporate Value Chain （Scope3） Accounting and Reporting Standard 」 https://ghgprotocol.org/standards/scope-3-standard