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気候変動対策の遅れが経営リスクになる時代――企業はTCFD提言にどう対応すべきか：TCFD提言を契機とした攻めのGX戦略（1）（1/4 ページ）

企業のグリーントランスフォーメーション（GX）に向けた取り組みが注目されている昨今。東証再編に伴うコーポレートガバナンスコードの見直しなども影響し、「TCFD（気候関連財務情報開示タスクフォース）」に沿った適切な情報開示や取り組みの推進がより一層求められつつある。本連載では、こうした企業のTCFD提言を契機としたGXの実現に向けた方策について解説する。

» 2022年09月27日 07時00分公開

[アビームコンサルティング産業インフラビジネスユニットダイレクター松本　仁志，スマートジャパン]

TCFDの第2波が到来

　筆者は企業向けのエネルギー・サステナビリティ関連のコンサルティングサービスに長らく従事しているが、昨今TCFD¹提言に沿った開示に関する問い合わせが増えていると感じている。これは明らかに2021年6月に改定されたコーポレートガバナンスコード²（以下CGC）の影響だと考えられる。

　CGCでは「プライム市場上場会社は、TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである（補充原則3－1③）」と定められており、プライム市場上場企業については、TCFD提言に沿った情報の開示は実質的に義務化されたと考えるべきだろう。

　今は「TCFD第2波の到来」だと筆者は考えている。以下のTCFD賛同機関数の推移を見ていただきたい。TCFDコンソーシアムが設立された2019年頃に日本企業の賛同数が増えているのは、TCFDへの対応の重要性をいち早く理解し行動に移した環境トップランナー企業が一定数いたことを示している。また、2021年6月頃から日本企業の賛同機関数がもう一段ぐっと増加しているのが見て取れるが、これがCGC改訂の影響と考えられる。本稿では、この波を好機ととらえ企業が今後とるべき対応について、私見を述べたい。

図1　TCFD賛同機関数　出典：TCFDコンソーシアム（https://tcfd-consortium.jp/about）

1.TCFD（Task Force on Climate-related Financial Disclosures/気候関連財務情報開示タスクフォース）：G20の要請を受け、気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するため、金融安定理事会（FSB)により設立されたタスクフォース。以下TCFDコンソーシアムのWebページに詳細情報あり（https://tcfd-consortium.jp/about）
2.会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための実効的なガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたもの（https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000005lnul.pdf）

TCFD提言とは？

　まずは、TCFD提言の内容について軽くおさらいをしたい。TCFDとは、Task Force on Climate-related Financial Disclosuresの略称であり、G20の要請を受け、気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するために金融安定理事会（FSB）により設立された気候関連財務情報開示タスクフォースである。このTCFDは、2017年6月に最終報告書を公表し、企業等に対し、表1に示す気候変動関連の「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4要素11項目について開示することを推奨している。

表1　TCFDの推奨する開示項目　出典：TCFDを活用した経営戦略立案のススメ～気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド ver3.0～（https://www.env.go.jp/content/900498783.pdf）

　なぜ、金融機関や投資家は、このような項目の開示を企業に求めるのだろうか。それは、気候変動リスクが金融システムの安定を損なう恐れがあり、金融機関の脅威になりうると考えているからであろう。実は金融機関のみならず世界の経営層も同様に、気候変動に関する環境・社会リスクを最も重要視しており、世界経済フォーラム（WEF）「グローバルリスクレポート2022」における「経営層の考える世界規模のリスク」のトップ3はすべて気候変動関連項目となっている。さらに言えばトップ10のうち5項目は気候変動／環境関連項目である。