気候変動対策の遅れが経営リスクになる時代――企業はTCFD提言にどう対応すべきかTCFD提言を契機とした攻めのGX戦略(1)(2/4 ページ)

» 2022年09月27日 07時00分 公開

企業はTCFD提言をどう受け止めればよいのか

 では、企業としてはTCFD提言をどのように捉えればよいのだろうか。これについては、逆にTCFD提言に対応しない場合にどのような影響が予想されるかで考えていきたい。

 まず短期的には、金融機関/投資家等のステークフォルダーから気候変動に対する姿勢が消極的と評価され、投資対象から外されたり、ポートフォリオ比率の低下、さらにはブランドイメージの低下にもつながる可能性があると考える。

 なかには「我が社はTCFD提言には沿ってないが、CSR報告書やサステナビリティ報告書で十分な情報を開示している」という企業もあるだろう。しかし、投資家の立場になって考えると、投資対象はグローバルに広がっており、1社の調査にかけられる時間は多くない。その中では、「複数の報告書を見ないと分からない」では不親切であり、「共通の開示推奨項目に沿った形での開示」にしないと、検討の土台にすら載れない可能性があることを認識すべきであろう。

 また中長期的には、気候変動リスク/機会を適切に管理・把握できないことで、突発的な気候変動関連リスクの顕在化、規制の導入、マーケット環境の変化等により、大規模な財務損失もしくは売上機会の逸出など経営基盤の弱体化につながる可能性があり、こちらの方がより本質的な問題である。

 冒頭で触れた通り、最近筆者のところにもTCFD関連の相談が増えている。話を伺ってみると、悩みや課題は共通しており、いわゆる環境トップランナー企業のように社内に専門人材がいない中で「シナリオ分析や財務インパクト評価など、とても自社でできるようには思えないし、どこから手を付けてよいかも分からない」といった声が多いと感じている。

 確かに、TCFD対応で先行している環境トップランナー企業と全く同レベルの開示は難しいかもしれないが、これは決して0か100かの世界ではなく、各企業ができる範囲から始め、徐々に開示内容を充実させていけばよいものと考えている。本稿では、今後TCFD対応を考えている企業に向けて、特に従来の環境関連開示にはない「シナリオ分析」「財務インパクト評価」への対応方法について私見を述べたい。

気候変動のリスクと機会

 シナリオ分析を進める前に、気候変動のリスクと機会について触れておきたい。まずリスクであるが、TCFD提言では、気候関連リスクを脱炭素社会への「移行」に関するリスクと気候変動による「物理的」変化に関するリスクに大別している。

 移行リスクは、さらに「政策・法規制リスク」「技術リスク」「市場リスク」「評判リスク」に大別される。特に「技術」に関しては2022年6月に設立された「世界トランジション(移行)ファンド」に150億USドル(約2.1兆円)の資金が集まるなど、最近ようやくこの分野の重要性が認識されるようになってきたと感じている。

 筆者は戦略的に脱炭素社会への移行を目指す欧州連合(EU)動きを評価する一方で、GHG(温室効果ガス)排出ゼロの「Green」と、GHGを排出する「Brown」との単純な2分法で分類し、後者を排除するだけではむしろ世界全体での脱炭素化の実現は難しいと考えていた。しかし、こうした移行ファンドは「薄いBrown」や「薄いGreen」など中間点も許容しており、これは段階的に脱炭素社会に向けた取り組みを促進していくための有益な手段と考える。

 物理的リスクは比較的イメージしやすいと思われるが、台風の大型化や豪雨の頻発などの「急性リスク」と影響が徐々に現れる海面上昇などの「慣性リスク」に分けられる。

図3 気候関連リスクの例示 出典:TCFDを活用した経営戦略立案のススメ〜気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド ver3.0〜(https://www.env.go.jp/content/900498783.pdf)

気候関連機会については「資源の効率性」「エネルギー源」「製品/サービス」「市場」「レジリエンス」に大別している。

図4 気候関連機会の例示 出典:TCFDを活用した経営戦略立案のススメ〜気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド ver3.0〜(https://www.env.go.jp/content/900498783.pdf)

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