サプライチェーンの脱炭素化の鍵となる「Scope3 排出量」、その算定手順と対策事例TCFD提言を契機とした攻めのGX戦略(2)(2/3 ページ)

» 2022年10月06日 07時00分 公開

Scope3排出算定の手順

 まず、Scope3排出量算定の具体的手順であるが、環境省では以下4ステップで算定を進めることを提唱しており、これに則り、具体的な事例も交えて解説したい。

STEP1:算定目的の設定

 算定においては、可能な限り算定精度・算定範囲を高めることが望ましいのは当然だが、一方で算定精度を高めるためには労力/コストが増大するなどこれらは一般的にトレードオフの関係にある。したがって算定目的に応じた算定精度を意識して取り組むことが重要となる。

 例えば、「サプライチェーン排出量の全体像(排出量総量、排出源ごとの排出割合)を把握し、優先的に削減すべき対象を特定したい」という目的であれば、個々の算定精度を高めることよりも、算定のカバー率を高めることに力を置くべきであろう。事業者が入手可能な活動量データ(仕入、販売、固定資産、出張経費、廃棄物処理量等)に応じた幅広い排出原単位4が用意されているので参考にされたい。

 また「サプライチェーンにおける個別の取り組みによる排出削減効果を把握したい」という目的であれば、標準的な排出原単位による算定では活動量を減少させない限り排出削減にはつながらないため、サプライヤー固有のデータを入手することが必要となる。サプライヤーと共同でこの排出量を下げる努力をすることにより、サプライチェーン全体での排出削減となり、さらには強固なサプライチェーンの構築にもつながるものである。これについては後段で詳述する。

4. サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(Ver.3.2)https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate_tool.html#no02

STEP2:算定対象範囲の確認

  • 組織的範囲

 省エネ法や、温対法(算定・報告・公表制度)では個社を自社の範囲として対応しているが、GHGプロトコルでは国内外のグループ企業を含めて自社の範囲として対応することが求められている。したがってグループ内企業との取引がある場合は少し注意が必要となる。例えば輸送をグループ会社が行っている場合にはScope3カテゴリ4の「輸送・配送(上流)」ではなくScope1(電気自動車の場合はScope2)で計上することなる。

  • 時間的範囲

 Scope1,2については、算定対象とした報告期間に排出した排出量を算定するのでシンプルであるが、Scope3の排出時期は、算定対象とした報告年度とは異なることに注意が必要だ。表1に示した通り、例えば、カテゴリ1「購入した製品・サービス」では報告年度のみならず過去の排出量も含むことになる。逆にカテゴリ11「販売した製品の使用」では、販売した年のみではなく将来に渡ってこの製品が使用されることに伴うトータル排出量を推計し、それを算定年度に一括計上することにご注意いただきたい。

 また算定期間についてのご質問も多くいただく。特段ルールはないものの、投資家としては財務情報とGHG排出量などの非財務情報を一体として企業評価をしたいという基本的ニーズがあり、その点からはScope3排出量算定期間に関しても自社の会計年度に合わせることが原則であろう。

表1 カテゴリごとの算定対象と実際に排出される年度 出典:環境省物語でわかるサプライチェーン排出量算定(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/Supply-chain_A3.pdf)

STEP3:各カテゴリへの分類

 算定対象範囲を確認した後は、各活動をカテゴリ1〜15に分類していくことになる。サプライチェーンにおける各カテゴリーイメージを図3に示す。ただし、Scope1、2排出量で既に算定をしているものに関しては、そこから切り出してScope3の各カテゴリへの再分配をする必要は無いのでご安心いただきたい。

 例えば、自社オフィスでリースして使用している複合機やパソコンによる排出量は、Scope2で既に算定しているケースが大半であろう。その場合はこの排出量を切り出して「カテゴリ8 リース資産(上流)」への計上は不要である。同様にフランチャイズ店舗による排出量も Scope1,2で算定していれば「カテゴリ14 フランチャイズ」への計上は不要である。

 ただ実務を進めていくと、このカテゴリへの分類は判断に迷うケースも多々あると感じている。経済産業省や環境省は算定に関するガイドライン5を整備しているが、当然ながら必ずしもすべてのケースが網羅されているわけではない。これはあくまでも法律ではないので、最終的には各社がガイドライン等に基づいてカテゴリ分類や算定の要否を判断することになり、その考え方を対外的に説明できれば十分であると考える。

図3 サプライチェーンにおけるScope3各カテゴリーイメージ(製造業) 出典:サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン Ver.2.4(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/GuideLine_ver2.4.pdf)

 また、自社の算定結果が他社とダブルカウントになるのではないかとの質問も受けるが、そもそもScope3排出量とはそういうものなのである。つまり、「サプライチェーン上における誰かの削減」は結果的に「サプライチェーン上のみんなの削減」となり、だからこそ他事業者と連携した削減の取り組みが促進され、自社だけでは達成できないGHG削減が実現できるのである。

5.サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン (ver.2.4) https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/GuideLine_ver2.4.pdf

STEP4:各カテゴリの算定

 まずは、「活動量」×「排出原単位」で算定することが一般的である。

 「活動量」は、事業者の活動規模の量であり、例えば、製品サービスの仕入金額や商品の販売金額(円)、出張や通勤費などの経費(円)、貨物の輸送量(トンキロ)、廃棄物の処理量(トン)などが該当する。

 「排出原単位」とは、活動量あたりのGHG排出量を示すものであり、各種DBが用意されているので参考にされたい。ただし、この方法では活動量を減少させない限り排出削減にはつながらないことは「Step1:算定目的の設定」で述べた通りだ。サプライヤーと共同でGHG排出量を減らす努力をすることにより、サプライチェーン全体での排出削減につながる。こういった取り組みを拡大し、算定におけるサプライヤー固有データ比率を徐々に増やしていくことで、大規模なScope3排出削減につながるのである。

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