再エネの大量導入やEVの普及などにより、今後さらなる導入拡大が広がると見られているリチウムイオン電池。現状国内ではその設置・保管について厳格な規制が設けられているが、政府では蓄電池産業の国際競争力の強化などを目的に規制緩和を行う方針だ。
カーボンニュートラルに向けた変動性再エネの大量導入と同時に、脱炭素型調整力供出リソースの一つとして、定置型蓄電池やEVの導入拡大が想定されている。
現在の高性能蓄電池の代表格はリチウムイオン蓄電池であるが、この電解液は消防法で定める危険物であるため、その貯蔵等に関しては厳格な規制が存在する。
国の「GX実現に向けた基本方針」においては、2030年までの蓄電池・材料の国内製造基盤150GWhの確立に向けて、蓄電池産業の国際競争力の向上を図ることが示されており、産業界からは、リチウムイオン蓄電池の貯蔵等に関して、諸外国とイコールフッティングな火災安全対策とする規制改革が要請されていた。
このため消防庁は2022年3月に「リチウムイオン蓄電池に係る火災予防上の安全対策に関する検討会」を設置し、2023年2月にその検討報告書が公表された。
なお火災予防に関する法令には、消防法のほか、危険物の規制に関する政令・規則・告示があるが、表記簡易化のため、本稿ではまとめて消防法と呼ぶ。
リチウムイオン蓄電池の電解液は引火性液体であるため、火災等が発生した場合には、電解液や可燃性ガスがセルの外部に噴出・着火し、激しく火炎を噴き出すこととなる。このため、車載用リチウムイオン蓄電池を一時的に貯蔵する倉庫(屋内貯蔵所)に関しては、その面積や階数、軒高について、現在以下のような規制がある。
これにより、一つの倉庫で少量のリチウムイオン蓄電池しか貯蔵することができず、貯蔵・物流コストが高額化する一因となっていたため、産業界からは規制緩和が要望されていた。
欧米では、危険物の保安に関して国が一律に規制するのではなく、地方公共団体がそれぞれ基準を策定していることが多い。一方で、企業財産保険の加入条件として、民間保険会社等が策定している基準(法令を超える基準)を満たすことが求められており、多くの企業で採用されている。
例えば、企業財産保険の分野で世界シェア1位の保険会社である米国FM社は、自社の実験施設において様々な耐火実験等を行い、財物損害防止の防火規格を制定している。FM社の基準の一例として、最小放水圧力0.24MPa、流量定数(L/min)K320またはK360の高感度型のスプリンクラーヘッドを同時開放12個で防護するよう設計することが求められている。なお、現時点国内で認められている最大のスプリンクラーヘッドはK114である。
このように、欧米では、強力なスプリンクラー設備により、火災を初期に消火することを重視している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.