需給調整市場の一次調整力商品、応動時間を拡大した「スカウティング枠」を導入へ応動時間要件を30秒に緩和(1/4 ページ)

資源エネルギー庁では、調整力調達コストの低減を目的として、応動時間を10秒から「30秒以内」に要件緩和した一次調整力商品「スカウティング枠(オフライン枠)」の導入を検討している。本稿ではその詳細と今後の商品設計の見通しについて解説する。

» 2023年10月03日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

 電力の安定供給のためには、十分な調整力の確保が不可欠であり、従来、主に火力や水力発電が調整力を提供してきた。今後は、蓄電池や需要側リソース(DSR)を「脱炭素調整力」として活用することが期待されている。

 需給調整市場では、2024年度からすべての商品の取扱が開始される予定であり、このうち最も高速な商品である「一次調整力」は、応動時間が10秒以内と定められている。

表1.需給調整市場の商品要件 出典:需給調整市場検討小委員会

 資源エネルギー庁の「次世代の分散型電力システムに関する検討会」では、DSRの調整力としての活用に関する検討を行い、ソーダ電解装置等の応動がリニアなリソースにおいては、応動時間要件を緩和することにより、ΔkW供出量の増加が期待できることが報告された。

図1.スカウティング枠のイメージ 出典:需給調整市場検討小委員会

 このため、電力広域的運営推進機関の「需給調整市場検討小委員会」において、調整力応札不足の予防や、調整力調達コストの低減を目的として、応動時間を10秒から「30秒以内」に要件緩和した一次調整力商品の導入検討を行った。

 これは「新たなリソースを積極的にスカウトする」意味を持つことから、小委員会ではこの新たな商品区分を暫定的に「スカウティング枠」と呼ぶこととした。

一次調整力の区分におけるスカウティング枠の位置付け

 現行の一次調整力は、大きく「平常時対応(時間内変動対応)」と「異常時対応(電源脱落対応)」に、その機能が分かれている。それぞれの必要量は以下の算定式で与えられ、「一次」の必要量はその合計値となる。

  • 平常時対応必要量:「残余需要元データ」−「元データ10分周期成分」の3σ相当値
  • 異常時対応必要量:単機最大ユニット容量の系統容量按分値
表2.一次調整力の区分 出典:需給調整市場検討小委員会

 なお、一次調整力は「自端制御」(外部からの指令が不要)であるものの、その応動監視のために専用線を構築することが原則とされている。しかしながら、専用線の構築には高額の費用が掛かるため、小規模なリソースにとってはこれが参入障壁となり得る。

 このため、多様なリソースの市場参入を促すため、蓄電池やDSR、1,000kW未満の発電機を対象とした「オフライン枠」(専用線は不要)を設けることとした。

図2.一次調整力 オフラインによる参入対象リソース 出典:需給調整市場検討小委員会

 ただし、オフラインの場合、応動状態をリアルタイムに把握することが出来ないため、電力品質確保の観点から、一次調整力必要量のうち「4%」を、オフライン枠の調達上限量としている。なお「4%」は、容量市場における発動指令電源の調達上限の比率を参照した数値である。

 以上を前提として、応動時間を30秒以内に要件緩和したスカウティング枠を、表2のどの領域に位置付けるかの検討が行われた。

 30秒応動リソースでは、電源脱落等の緊急時に一層の周波数低下を招き、最悪の場合、ブラックアウトに至るおそれがあるため、異常時対応の領域2・4は不適切である。また、平常時対応のうち、オフライン枠の4%の範囲内であれば、周波数品質への影響は限定的と考えられる。またオフライン枠では、30秒応動要件への変更に伴うシステム改修は軽微であり、早期実現性の観点でも優位である。

 よってスカウティング枠は、表2の「領域3(平常時対応・オフライン枠)」で取り扱うこととした。また、スカウティング枠の対象は、脱炭素調整力ともなり得るリソース発掘やアグリゲーター育成といった観点とも整合的であることから、現行のオフライン枠と同様に、「DSR・蓄電池・発電機(1MW未満)」とした。

 なお、現行のオフライン枠(応動時間要件10秒)のリソースは、平常時、異常時のいずれも対応可能であるものの、スカウティング枠導入後は、オフライン枠の応動時間要件が30秒に緩和されることになる。

 このため、スカウティング枠導入後は、オフライン枠のリソースは平常時のみを対応することとなり、「領域4」は実質的に消滅することとなる。

図3.オフライン枠の一次調整力における位置付け 出典:需給調整市場検討小委員会
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