営農型太陽光発電の関連制度が見直しへ、省令改正と新ガイドラインの内容とは?ソーラーシェアリング入門(64)(2/2 ページ)

» 2024年01月15日 07時00分 公開
前のページへ 1|2       

新たなガイドライン案の内容

 もう一つパブリックコメントが実施されたのが、従来の農村振興局長通知「支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度上の取扱いについて」を、新たに「営農型太陽光発電に係る農地転用許可制度上の取扱いに関するガイドライン」とする案です。こちらにはさまざまな変更点が加えられています。まず、ガイドラインの冒頭には下記のような一文があります。

 営農が適切に継続されない事例を排除し、農業生産と発電を両立するという営農型太陽光発電の本来あるべき姿とするため、農地法関係法令に定められた内容その他営農型太陽光発電の実施に係る具体的な考え方や取扱いについて「営農型太陽光発電に係る農地転用許可制度上の取扱いに関するガイドライン」を定めた

 これはガイドラインの策定背景を説明したものですが、不適切な営農型太陽光発電の事例への対処と、営農型太陽光発電は農業生産と発電を両立するものであるという点が示されています。

 本文を見ていくと、大きな変更点としては主に以下の点が挙げられます。

  • 収量規制の対象外とされた荒廃農地再生の事例について、一時転用許可更新時には耕地として再生されていると言えることから収量規制の対象となること
  • 農業経営基盤促進強化法における地域計画の区域内で営農型太陽光発電事業を行う場合には地域計画の協議の場で合意を得ること
  • 省令改正にもあった違反転用等の処分を受けている場合には許可を行わないこと
  • 支柱部分の面積と設備下部の農地面積の合計が30aを超える場合には都道府県農業委員会ネットワーク機構の意見を農業委員会が聴くこと。4haを超える場合には地方農政局等に相談すること
  • 毎年の栽培実績報告に際して収支報告書も提出すること
  • 4haを超える事業や営農に支障が生じている事例は毎年度現地調査を行うこと

 非常に多くの項目が新設あるいは追記されていることが伺え、特に営農型太陽光発電における事業の監視や情報収集に関する事項が増えたり、報告すべき事項が増えたりしている点が注目されます。これは、不適切な営農型太陽光発電の事例の増加が今回の措置の発端になっていることもあるでしょう。

今回の見直し全般に関する所感

 私もいくつかパブリックコメントを提出しましたが、大きな課題と捉えているのは今回の見直しが「規制強化」を目的としており、不適切な事例を抑制していくことを狙っている一方で、今後推進していくべき営農型太陽光発電の事例とはどんなものなのか、そうした取り組みを後押しする措置が含まれているかという点です。この観点で今回の政府から提示された案を見てみると、「営農型太陽光発電が農地法の中に明確に位置づけられた」(法的根拠が明確にされた)という点くらいにとどまると思います。

 今後の課題としては、例えば一時転用許可の更新について「再度一時転用許可を行うことができるものとする」とガイドライン案には示されていますが、制度開始から10年が経過しても一時転用許可の更新が受けられるかどうかは農業者・発電事業者や金融機関等にとって相変わらず最大の懸念事項であり、この基準をより明確にするなどして懸念の払拭を図ることが必要です。

 また、今回のガイドライン案で最も懸念しているのが地域計画との関係性です。「地域計画の区域内で営農型太陽光発電を行う場合には協議の場で合意を得ること」という項目があっさりと追加されようとしていますが、そもそも農林水産省は農山漁村における再生可能エネルギー導入目標値や詳細な方針などを未だに示していません。みどりの食料システム戦略では農山漁村における再生可能エネルギー導入や脱炭素化を盛り込んでいますが、どのような再エネをどこに導入していくかといった定量目標も指針もない中で、「営農型太陽光発電は地域計画の中で協議せよ」とだけ示して地域に乱暴に話を押しつける姿勢は問題です。その議論の土台となる農山漁村における再生可能エネルギー導入の全体像を明確に示し、それに準じて各地域の将来ビジョンの中で議論を行えるようにするといった対応をまず先に行っていくべきでしょう。

 現状、2024年1月2日にパブリックコメントが締め切られており、その内容がどこまで反映されるのかは未知数ですが、4月1日の施行に向けた確定版のガイドライン等が出てきた段階で、それぞれの詳細などは改めて見ていきたいと思います。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

特別協賛PR
スポンサーからのお知らせPR
Pickup ContentsPR
あなたにおすすめの記事PR