小売電気事業者に「3年度前の5割の供給力」を確保義務化へ 中長期取引市場の整備も第2回「電力システム改革検証制度設計WG」(2/3 ページ)

» 2025年07月10日 07時00分 公開
[スマートジャパン]

現行の小売電気事業者の供給能力確保義務

 現行の電気事業法においては、小売電気事業者に対して「正当な理由がある場合を除き、その小売供給の相手方の電気の需要に応ずるために必要な供給能力を確保しなければならない」といういわゆる「供給能力確保義務」が課されており、新たな小売電気事業者の登録に際しても、供給能力確保の見込みを確認している。

 2024年の容量市場制度開始により、現在、小売事業者が果たすべき供給力確保義務とは、容量市場における容量拠出金を支払う義務と整理されている。

 実需給2028年度を対象とする最新の2024年度容量市場メインオークション及び長期脱炭素電源オークションにおいて、小売事業者は約1.7兆円(経過措置控除後)の容量拠出金を支払うと試算されている。

表1.実需給2028年度 容量拠出金の試算 出典:広域機関

 ただし、近年顕在化している電力安定供給の課題は、発電設備容量(kW)の確保だけでは解決が困難であり、小売電気事業者がスポット市場で短期的に供給力(kWh)を確保する量が増加するほど深刻化すると懸念される。このため、「設備的な供給力(kW)」と「量的な供給力(kWh)」を一体的に確保する取り組みにより、この課題を克服することが求められる。

小売電気事業者の「量的な供給力(kWh)」確保の考え方

 小売電気事業者に対して、「設備的な供給力(kW)」と「量的な供給力(kWh)」を一体的に確保することを求めることは、発電事業者の販売電力量、すなわちkWh面での収入の予見性を高めることにつながると考えられる。

 これは、発電事業者の燃料調達に係る中長期契約の維持や電源投資の環境を整え、発電コストの変動抑制や安定供給の改善を通じて、小売事業者や需要家の利益にもつながると期待される。

 ロシアによるウクライナ侵略に伴う燃料価格の高騰が生じた欧州でも、同様の考え方に基づき、小売電気事業者に対する規律の強化が進められており、長期契約等を通じたヘッジ義務を新たに課すこととされた。

表2.EU 小売電気事業者のヘッジ義務 出典:電力・ガス基本政策小委員会

小売電気事業者「量的な供給力(kWh)」確保の具体値

 小売電気事業者に対して新たに「量的な供給力(kWh)」の確保を求める場合、その「量」と「対象時期」を定める必要がある。確保すべき量が多いほど、また対象時期が将来(期先)であるほど、安定供給面での効果は大きいと考えられるが、小売電気事業者の負担も増すと考えられる。また、実需給年度から遠く離れるほど需要見積の精度は低くなり、確保すべき供給力(kWh)の精度も低いものとならざるを得ない。

 このためWG事務局では、容量市場メインオークションが実需給年度(N年度)の4年前(N-4年度)に取引を行っていることを参考として、実需給年度の3年前(N-3年度)から供給力(kWh)の確保を求める案を示した。

 また、確保すべき量(kWh)については、JEPXスポット市場で取引されている量が総需要量の3〜4割程度(先述の図2)であることや、最低負荷需要(図4)を参考として検討を行った。2016〜2023年度の各エリアの最低負荷需要が各エリアの総需要に占める割合は6割程度であり、いずれのエリアでも総需要の5割を割り込んだ実績はない。

図4.電力需要のデュレーションカーブ 出典:電力システム改革検証制度設計WG

 これらを踏まえ、あらかじめ小売電気事業者に確保を求める量的な供給力(kWh)は、実需給年度の各小売電気事業者の想定小売供給量(kWh)に対して、

  • 実需給の3年度前(N-3年度)に5割
  • 実需給の1年度前(N-1年度)に7割

に相当する量の供給力(kWh)を確保することを求める案が示された(図5右)。なお、小売電気事業者の供給力の調達手段やポートフォリオの自由度を確保するため、確保する供給力の負荷の形式(ベース・ミドル・ピークなど)は問わないこととする(図5左)。

図5.量的な供給力(kWh)の確保のイメージ 出典:電力システム改革検証制度設計WG

 現在、小売電気事業者は毎年度、「供給計画」を届出することが義務付けられており、今後、その様式等を改正し、国は各社の量的な供給力の確保状況を確認する。小売電気事業者が量的な供給力を適切に確保しない場合、電気事業法に基づく供給力確保命令の対象となり、この命令に違反する場合、小売電気事業者登録の取り消し事由となる。

 現在のkW面での供給力確保(容量拠出金の支払い)義務は全ての小売電気事業者が等しく対象であるが、新たな量的な供給力(kWh)確保義務については、事業者の規模等に応じて何らかの差異を設ける必要性について、今後検討する予定としている。

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