今後、小売電気事業者に対して新たに「量的な供給力(kWh)」の確保を求める場合、小売電気事業者間の競争の公平性や、発電事業者と小売電気事業者の交渉力の対等性等にも十分に留意をしたうえで、中長期の供給力(kWh)の取引を円滑に行うことができる市場環境の整備が求められる。
電力卸取引は、事業者間の相対取引と取引所取引に大別されるが、現時点、中長期での現物電力調達を行うことができる取引市場としては、JEPXのベースロード(BL)市場と先渡市場が開設されている。
現在、BL市場で取引される商品の受渡し期間は「1年」と「2年」の商品のみであり、2024年度においては、1年商品の約定量は27億kWh、2年商品の約定量はゼロであった。なお、2024年度の相対取引量(グループ外への供給量)は、約661億kWhであった。
JEPX先渡市場の約定量はごくわずかであり、年間商品は3年前の4月1日から取引できるが、1年以上前に約定した取引はこれまで存在しない。
なお近年、現物を伴わない金銭取引である先物市場(TOCOM、EEX)の約定量が急増しており、2024年度は合計約947億kWhに上るが、中長期の取引量はまだ限定的である。
今後、実需給の3年度前から小売電気事業者に対して「量的な供給力(kWh)」の確保を求める場合、既存のBL市場や先渡市場では、取引対象期間や取引量・流動性の観点から、有効な調達手段とは言い難い。
このため、まずは透明性高く、電力価格指標の形成を図るため、取引所取引の一つとして、中長期の定型的な商品の取引を行う「中長期取引市場(仮称)」の整備を検討することとした。
現行のスポット市場では限界費用ベースの取引が基本とされているが、中長期取引市場では、電源や燃料調達に係る固定的費用の回収についても考慮する必要があると考えられる。この場合、容量市場(メインオークション及び長期脱炭素電源オークション)では、小売電気事業者が容量拠出金を負担していることについても、整理が必要となる。
図8のように、これまで地域間連系線の制約によるエリア間の市場分断発生率は、中長期的には変動が大きいことが確認されている。取引期間が中長期(期先)となるほど、売り手と買い手間でのさまざまなリスク負担の在り方を調整することは難しいと考えられる。
このため、中長期の電力取引を活性化するには、取引所における定型的な商品の取引だけでなく、多様な商品設計が可能となる相対契約の活性化も重要である。現在、相対契約では、これを仲介するブローカー事業者が重要な役割を果たしているが、今後、ブローカー事業者に対する規律のあり方について、その要否も含めて検討する予定としている。
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