横浜国立大学らの研究グループが、火力発電所の排ガス中に含まれるCO2と、廃棄される太陽光パネルから回収したシリコンを活用し、ギ酸を生成できる触媒の開発に成功したと発表した。
横浜国立大学 大学院工学研究院の本倉健教授らの研究グループは2025年7月、電源開発、産業技術総合研究所と共同で、火力発電所由来の排ガスに含まれるC
O2と、廃棄太陽光パネルから回収されたシリコンを直接反応させて、ギ酸を合成できる触媒を開発したと発表した。排ガスに含まれるCO2の有効利用と、廃棄される太陽光パネルのリサイクルを同時に実現する技術の確立を後押しする成果だという。
カーボンニュートラルの実現に向けて、排ガス中に含まれるCO2の直接利用による資源化技術の確立が期待されている。また、将来の大量廃棄が見込まれる太陽光パネルについては、ガラス、アルミフレーム、金属などに分離する技術は実用化段階にあるものの、全体重量当たりの3%を占めるシリコン部位に関しては、有力なリサイクル方法が確立されていない状況にある。
今回研究グループは、実際の廃棄太陽光パネルから分離・回収されたシリコン部位を活用し、火力発電所からの排ガス中のCO2と反応させることで、ギ酸と多孔質シリカを合成する触媒反応の開発に成功した。
まず太陽光パネルからさまざまな工程で分離されたシリコンを用い、純粋なCO2との反応を実施したところ、シリコンサンプルによってはCO2の還元反応が進行しないものが存在することが分かった。この原因を考察するため、シリコン粉末のX線光電子分光(XPS)測定を行ったところ、反応性の低いシリコンサンプルには表面に不純物のアルミニウムが存在していることが判明した。このアルミニウムを塩酸によって除去することでシリコンの反応性が向上。CO2との反応を試みた全てのサンプルにおいて、ギ酸が生成することが確認できた。
次に、微粉炭火力発電所の排ガスを直接ボンベに回収し、この排ガスを9気圧に昇圧して廃棄シリコンとの反応を実施したところ、最高で1.10mol(ミリモル)のギ酸を合成することに成功した。このとき、反応容器中に導入されたCO2基準のギ酸収率は73%に達したという。さらに、火力発電所からの排ガスを直接反応容器に導入した場合も、ほぼ同様のギ酸収率が得られた。これらの結果は、特殊な処理工程を経ることなく排ガスをシリコンとの反応に用いられることを示しており、将来的なCO2からのギ酸合成プロセスの確立へと前進する成果としている。
純粋なCO2と高純度シリコンを反応させてCO2を還元し、ギ酸が得られることは既に同研究グループが報告していたが、実際の廃棄シリコン・排ガスを活用できることを実証したのは初めての成果になるという。今後は、今回明らかになったシリコンサンプルによる反応性の違いや、触媒効率など、実用化へ向けた課題の解決に向けた取り組みを進めるとしている。
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