憧れだったマレー鉄道の余韻に浸りながらクルマで移動し、私たちは昼過ぎにマラッカに到着した。街のいたるところに、異国の空気が漂っている。ポルトガル、オランダ、イギリスと次々に占拠され、交易の都市として栄えた時代に、中国からも多くの人々が移住。そんな各国の雰囲気が融合し、他には見られない独特の街並みが形成されたのだろう。
チャイナタウンの入口でクルマを降りた私たちは、そこから街の中心部を目指してジョンカーストリートをゆっくり進んだ。1400年代の建物が残る通りには、骨董品店や雑貨店、カフェなどが軒を連ねている。それにしても、暑い! タオルで汗を拭いながら歩いている私たちに、背中から「乗りなよ」と声をかけてくるのは、この街の名物である人力三輪車「トライショー」の運転手たちだ。自転車にサイドカーを付けた乗り物で、1台1台が色とりどりの造花など派手な装飾を競い合っている。
「あ、楽しそう。乗る?」
私の提案を、同行の古庄氏は「だめ、撮影もあるし。頑張って歩きましょう」とバッサリ。仕方ない。では、どこかのカフェでまずはビールでも。彼はその提案には笑顔でうなずき、そしてこう付け加えた。「でも、あとでね」
やがてマラッカ川の橋を渡ると、オランダ広場と呼ばれる中心エリアに出た。何十台ものトライショーが客待ちをしている。そこでも乗らずに我慢して、セントポールの丘を歩いて上り、教会やサンチャゴ砦などのフォト・シューティングに2時間ほどを費やした。古庄氏もさすがに疲れたと見え、高台の石垣に腰を下ろして「さて、どこかで食事でもしますか」と一言。少し休んだあと、お互いに「行くか?」と目で合図して立ち上がり、頭の中に冷たいビールを思い浮かべながら街の中心部へ引き返した。
作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。
著書に『ボーイング787まるごと解説』『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。
Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。
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