「全席通路側」がビジネスクラスの最新トレンド:秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(3/3 ページ)
エアライン各社はここ数年、ビジネスクラスの革新を進めてきた。従来のファーストクラスをしのぐ豪華シートも登場している。その最新トレンドは、ズバリ「全席通路側」だ。
シンガポール航空の大胆なチャレンジ
しかしスタッガード型も、やはり評価は分かれる。マイナスポイントをつける利用者の声の一例が、座席の横にテーブルのスペースを確保しなければならないため、シートの横幅がどうしても狭くなること。また座席によって当たり外れがある点を指摘する人も少なくない。「窓側の場合は、通路に面した部分にテーブルがあってその奥の窓際にシートがある席だとプライベート感が高くて落ち着くが、その前後の席はレイアウトが反対になる。つまりテーブルが窓側にあって、座るスペースは通路のすぐ横に。その席に当たると、通路を通る人がすごく気になる」というのだ。
スタッガード型か、前述したヘリンボーン型か。利用者によって好みははっきりと分かれるようである。ところで、なかにはスタッガード型でもヘリボーン型でもない「1-2-1」配列のビジネスクラスシートも存在する。シンガポール航空が総2階建て機A380のビジネスクラス用に導入したシートだ。シート幅は1つの席に2人が並んで腰掛けられるほど広く、しかも全席がまっすぐ前を向いている。プライバシーを確保したデザインも印象的で、以前のリポートでも詳しく報告したように、これを「最強のビジネスクラス」と評価する声も少なくない(参照記事)。
シンガポール航空のその最強のビジネスクラスが、さらに進化した。冒頭の写真で紹介したのが、2013年10月11日に成田空港で報道関係者に公開された新しいシートだ。ボーイング777-300ERの8機を皮切りに導入を進め、今後受領するエアバスA350にも設置される。「1-2-1」配列でありながら全席が「前向き」という特徴は従来と変わらず、利用者から要望の多かったアメニティやラップトップなどの収納スペースを設けた。映画などを楽しむパーソナルモニターはこれまでの15.4インチから18インチに大型化し、スマートフォンを操る感覚で操作できるタッチパネル機能の付いたリモコンを装備している。
この新シートを搭載した777-300ERは現在、シンガポールからロンドンへの路線で運航を開始している。同社広報は「日本路線への投入も今後検討していく」と話していた。キャビンプロダクトの斬新性という点で常にエアライン業界の先頭を走ってきたシンガポール航空が、今回の新シート導入でそのリードをまた一歩広げた印象である。
著者プロフィール:秋本俊二
作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにリポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。
著書に『ボーイング787まるごと解説』『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。
Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。
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