コラム
» 2006年10月16日 10時30分 UPDATE

金融・経済コラム:日本企業には買収できなかったYouTube

先週はGoogleのYouTube買収が大きな話題となりました。YouTube買収には複数の企業が興味を示していたと言われますが、日本企業の名前が挙がることはなかったはずです。その訳は……

[保田隆明,ITmedia]

 10月9日に発表されたGoogleによるYouTubeの買収合意ですが、プレスリリース発表後に電話会議(カンファレンスコール)形式による両社のスピーチ、および、ウォール街証券会社アナリストや各種メディア記者とのQ&Aセッションがありました。

 今やYouTubeの閲覧数のうち、結構な割合が日本からのアクセスで占められていますので、日本企業が買収に興味を示す可能性もなきにしもあらずだったのでは? と思ったりもしますが、そのカンファレンスコールから明らかだったことは、日本企業にはYouTubeの買収はやりたくてもできなかったということでした。

株式交換による買収

 今回の買収は、株式交換によって行われます。あるアナリストが、どうして今までのGoogleの買収では現金による買収が多かったのに今回は株式交換によるものなのか、という質問をしました。確かにGoogleの保有現金同等物から勘案するに、今回の16.5億ドルも現金で用意できたはず。これに対して、Google側は株式交換だとYouTubeの株主に対して(当面は)税金がかからないメリットが存在するからだと答えました。現金による買収の場合は、売却年度に一括して売却益に対する課税がかかりますが、株式交換の場合は受け取ったGoogle株式を売却するまで税金を繰り延べることができます。YouTubeの株主はこちらを好んだということです。

 さて、今回のYouTubeの買収をめぐっては複数の買収候補者が存在したと言われています。しかし、日本企業がいくら候補者になりたかったとしても、YouTube株主が株式交換を望んだのであれば、日本企業は真っ先に候補先からはずされていたでしょう。というのは、日本企業は外国企業との株式交換ができないからです。

「まだ」不可能な日本企業と海外企業の株式交換

 来年には三角合併という形で海外企業との株式交換が可能となりますが、現状では実質的に不可能です(京セラがアメリカ企業を買収する際に株式交換を用いた一例が奇策として存在しますが、他は全く存在せず、日本企業と海外企業での株式交換は不可能です)。

三角合併:

B社がC社を吸収合併する(存続会社はB社)際に、C社の株主に対価としてB社の親会社であるA社の株式を交付して行う合併を指す。B社の親会社が海外企業であるような場合も許される。

来年5月から行えるようになる予定。


ライブドア-ニッポン放送事件で延期された三角合併

 この来年に解禁される三角合併ですが、本当は今年解禁される予定でした。しかし、ライブドアによるニッポン放送買収騒動が起きたときに、ビビッてしまった日本経済界のお偉い方たちによって一年間の延期となりました。

 今回のYouTubeの買収を本気で検討するような日本企業はほとんどないと思われますが、もし、本気で検討したであろう企業があったのならば、現在の日本のM&A関連法整備の遅れゆえにとんだとばっちりを食うたことになります。

テレビ局はダブルの理由で買収不可能

 また、テレビ局への影響や、はたまたテレビ局が買収すべきだったのでは、などのコメントも聞かれますが、日本のテレビ局の場合は、たとえ三角合併が解禁されていたとしても、別の理由で株式交換による買収はできませんでした。それは外人持分規制ですが、日本のテレビ局では外人株主が20%を超えることができません。株式交換をするとYouTubeの株主(外人)が日本のテレビ局の株主となります。今回のYouTubeの買収価格は約2000億円ですので、時価総額が8000億円以上あるテレビ局でないことにはYouTubeを株式交換で買収することはできません。しかし、現在、日本のテレビ局の時価総額は最も高いフジテレビでも5600億円です。もちろん株式交換に応じる側のYouTube株主にしてみると、Google株を保有する場合に比べて、日本のテレビ局の株式を保有することのメリットを検討することになるでしょうから、その優劣は想像に難しくありません。

著作権問題

 ただ、いずれにせよ、日本からの閲覧数の多くが著作権違反の映像を見るためという現状では、著作権に関してはカチコチの古い考え方を有する日本のテレビ局が買収を検討するということはまずなかったと思われます。一方、この著作権問題に関しては、あるアナリストが、著作権問題はGoogleがYouTubeを買収する際のハードルにならなかったのか、と質問していました。これに対しては、YouTubeは今までもこれからも著作権問題の解決にはコミットしており、今後はGoogleと統合することで解決のためのリソースも増えるので、ハードルにはならかなったと答えていました。また、ほかのアナリストが、買収完了を妨げうる要因は何かあるか、と質問していましたが、これもおそらく著作権問題などでの訴訟などを想定しての質問だったと思いますが、特にないとの答えでした。

 通常、M&Aでは、買収した企業に対して訴訟などが起こった場合は、売却側は買収側に対しての損害賠償を負うというような条項を入れます。今回、どういう売買契約書になっているかは明らかにされていませんので、この損賠賠償条項も内容は分かりませんが、カンファレンスコールを聞く限りでは、その当たりが買収のハードルにはなりえない様子でした。すでにある程度の損害賠償条項が入っているのか、それともそのリスクも完全に加味した上での今回の買収金額なのか、またはその両方か(おそらくそうでしょうが)。その当たり、アナリストの質問では聞きだせませんでした。

買収金額の正当性

 ほかのアナリストの質問の中には、買収金額を正当化するための短期的、中期的な収益計画を聞かせて欲しい、また、Googleの1株当たり利益に対してどの程度の減少インパクトがあるのかという質問もありましたが、Googleは社として将来の収益予想に関するガイダンスは提供しないんだ、ということで、全くヒントすら提供されませんでした。ただ、買収金額はYouTubeが単独で存在していたら正当化できないだろう、つまり、Googleと統合をしてシナジーを見込んだ上での数字であるというコメントがありましたので、今後のGoogleの決算発表の席でアナリストは確認をしていくことになるのだと思います。

 ほかのアナリストは、YouTubeの費用構造について教えて欲しい、といいましたが、驚くほどに費用がかかっていないよ、という一言で片付いてしまいました。と全くと言っていいほど、収益面でのインパクトに関しては情報がなかったのですが、よくよく考えてみると、Googleの時価総額と今回の買収金額を比べてみると、1300億ドル対16.5億ドル、つまり、今回の買収金額はGoogleの時価総額の1.27%でしかないのです。誤差の範囲と言えるでしょう。2000億円規模の買収をする場合に1株当たり利益の希薄化についての言及すら全くしないというのはなかなか難しいのですが、そこはさすがGoogleとしか言いようがないわけです。

ますます風化する楽天・TBS……

 具体的なサービスの統合計画についても、何も固まったものはなくむしろ考えうる選択肢がありすぎて困っているとのコメント。収益面でのインパクト、そして、具体的な統合シナジーは今後のお楽しみということですが、まずは19日に予定されている四半期決算報告の場でなにか追加での情報が出てくるか、見てみたいと思います。

 YouTubeの創業は2005年2月、サービスの正式開始は2005年12月ですが、正式サービス開始直前の昨年10月には楽天が1110億円をかけてTBS株式を大量取得しました。当時は、いったいどんな統合サービスが登場するのか、また、実際に両社は統合しうるのかといろいろ話題になりましたが、まさか1年後には世間を賑わす動画配信サービス企業が登場しているとは思わなかったのではないでしょうか。しかも、2000億円の高値でGoogleに売却され……。楽天が丸1年間塩漬けにしている1110億円も、今回のYouTube売却で本気で解決の道を探ることになるのでしょうか。

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)。『OL涼子の株式ダイアリー―恋もストップ高!』(共著:幻冬舎)ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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