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株式市場のストップ安とブログの炎上の関係金融・経済コラム

» 2006年11月20日 11時30分 公開
[保田隆明,ITmedia]

 以前、株式市場とWeb2.0の関係というコラムを書きましたが、参加者の総意が1つの形となって日々変化していくという意味では、株式市場はCGMとの共通点が多々あると思われます。

 そんな中、最近CGM周りで賑やかなのが炎上騒ぎ。個人的にはこの炎上騒ぎがCGMの発展過程の過渡期のみに起こるものなのか、あるいは今後も継続的に起こるものなのかに興味があるのですが、そのヒントは株式市場にあるのではないかと思われます。

 株式市場における炎上の典型的な例はストップ安でしょう。ストップ安が起こる原因はさまざまありますが、多いのは業績予想の下方修正と決算実績が事前予想よりも悪かった場合。どちらも事前の市場期待を裏切ることで投資家は失望売りを浴びせます。そして、株価はストップ安に。期待度が高い方が裏切られたときの失望感も大きいので、ストップ安をつけた翌日にも株価がドンドン下がっていく場合もあります。

 事前の予想を裏切ること以外で、他にストップ安をつけるような要因としては、虚偽報告があった場合があります。架空売上や簿外債務などの粉飾決算が一番の例です。ただ、これらの企業はストップ安という炎上は当然のことながら、通常は株式市場から退出するまでに至ります。つまり、企業として体を成していないわけでこれはストップ安や炎上の類の問題ではなく、そもそもの企業としての存在意義のところで議論されるべきでしょう。

 さて、今年の株式市場を振り返るとライブドアショックがストップ安の事例としてあげられます。しかし、これは上述した後者にあたり、事前の市場期待を企業の業績が裏切った例ではありません。そこで、近年の市場予想を裏切った例を振り返ってみると、大きなものとしてはソニーショックが挙げられます。

 ソニーの2003年3月期決算は1854億円の営業利益、1155億円の純利益を計上しました。これは2002年3月期に比べると営業利益は約40%上昇、純利益は7倍以上も上昇しました。しかし、この決算発表直後に、ソニーの株価は大暴落。その理由は、ソニーが事前に発表していた自社の収益予想(営業利益2800億円、純利益1800億円)に比べると実績値は35%の大幅ダウンだったのです。

 通常、実績値が事前に発表していた予想値を大幅に下回る場合は、決算発表の数週間前、もしくは数日前に業績予想の修正を行い、その時点で事前にプチ炎上(株価の下落)します。それは決算発表前に投資家の期待値を下げておき、当日の大炎上を避けるためです。しかし、ソニーはこのプチ炎上を怠りました。故意に怠ったのか、それとも決算発表直前まで社内でもこの業績が把握できていなかったのか分かりませんが、市場の間で経営陣の姿勢への不信感が募り、業績発表時は大炎上(連日のストップ安)となりました。

 炎上したブログは閉鎖すれば難を逃れることができます。しかし、企業の場合はストップ安を浴びせられても上場を継続し、再び株価を上げて市場の信任を得る必要があります。ソニーの場合、再び市場の信任を得るには数年時間がかかりました。

 企業は事前に業績予想を発表する際、多くの場合はウソをつこうと思っているわけではありません。経営陣に言わせると企業経営は予想外の事項の連続であり、そんな中で舵取りをしていると業績予想未達成というのはよくあること、ガタガタと騒ぎなさんなということでしょう。しかし、投資家は求めるものがドンドン高度になり、事前予想と乖離した実績となる企業に対しては、容赦なく売りを浴びせることになります。

 そして、企業側はそんなストップ安攻撃に嫌気がさしてきました。そこで最近企業が取るようになった手段は、事前に敢えて保守的な業績予想を作っておき、市場の期待度を最初から抑える行為です。後で下方修正をするよりは上方修正をした方がいいだろう、ということです。これだと確かに後で業績予想の修正をする必要がないので、炎上を避けることができるようにと思われます。

 しかし、実際に何が起こったかというと、保守的な業績予想を発表した企業は、その時点でプチ炎上をするようになりました。2006年3月期決算の発表の席では、2007年3月期の業績予想を発表しますが、多くの企業ではそれらの予想値が非常に保守的でした。

 そして、そのタイミングでの日経平均の動きを見ると、3月から5月にかけては株価が上昇基調だったのに、2007年3月の業績予想を発表し始めた5月からは株価が下落基調。夏以降はまた戻していますが、最近はまた9月の半期決算の発表が相次ぎ、2007年3月期決算の予想業績が上方修正されなかったということで、日経平均は1万7000円を目前に失速しました。

 これらの動きは結局のところ、事前プチ炎上ではないかと思われます。

 ソニーショックから始まり、業績発表当日に起こっていた炎上が、業績予想の修正日に起こるようになり、そして揚げ句には保守的な業績予想を発表した時点で炎上するようになり、単にタイミングが徐々に前倒しされるようになって来ました。

 株式投資とは結局のところ期待を基に行うものであり、それらの期待値は誰かがコントロールできうるものではありません。したがって期待が存在する限りはやはり期待はずれ、すなわち炎上が起きてしまうものなのでしょう。

 一方、企業にしてみると、事前に発表する業績予想が炎上のもとであることが多いので、それならば業績予想の発表をやりたくないと思うのも当然のことでしょう。実際アメリカでは業績予想を発表しない企業も多く、その流れが日本でも増えてくるかもしれません。しかし、株式市場が基本的には企業と投資家との対話、そして、期待値の上に成り立っているのであれば、その業績予想を発表しないという行為が、いくらアメリカでは一般的だったとしても市場に上場する企業としてどこまで良いものなのか、判断は今後慎重にしていくべきでしょう。

 業績予想の発表をしないというのは、企業が市場との対話を半分断っているわけであり、これをCGM、特にブログに当てはめると双方向性の特徴であるコメントやトラックバックの受付を拒否するようなものかもしれません。コメント、トラックバックの受付を拒否すれば炎上は避けうるでしょうが、そのようなブログが果たしてCGMの一部たりえるのかは議論の余地があると思われます。

 CGMの歴史が浅く、参加人口が増え続けている現状では、まだ使われ方に関しての総意というものが形成されているとは言えません。それゆえに、ブログがさまざまな使われ方をし、時には炎上もします。今後、数々の炎上を経てみんながよいと思う使い方の総意が作られていくのだとは思います。

 株式市場における企業も炎上を経験しながら、やってはいけないことを学んでいきました。しかし、企業の場合は、業績予想と実績との乖離があり続ける限り炎上は収まりそうにありません。また企業は今までは事前にプチ炎上することで、あとで大炎上することを避けるという手法をとってきたわけです。

 ブログには企業の業績予想と実績値の乖離のようなものはあまり存在しません。もちろん書いている内容が読者の期待と違ったという場合はあるでしょうが、株式投資の場合は、金銭が絡んでいますし、投資を受ける側の責務もありますが、ブログの場合は、書き手が勝手に書いているモノを読者が勝手に読んでいるだけ、つまり、双方に株式投資におけるような明確な責務関係は存在しません。

 ブログがキチンとみんなが許容するような使われ方をしていくようになれば、炎上はある程度抑えられるのではないかと思います。しかし、もし今後、ブログの場合も企業でいうところの粉飾決算ではなく、業績予想を裏切る形での炎上が出てくるのであればどんなものか見てみたいと思います。

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)、『OL涼子の株式ダイアリー―恋もストップ高!』(共著:幻冬舎)、『口コミ2.0〜正直マーケティングのすすめ〜』(共著:明日香出版社)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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