コラム
» 2007年03月05日 10時04分 UPDATE

金融・経済コラム:楽天がTBSの株を売らずに目指すところは……?

楽天がTBS株式を大量取得してからまもなく1年半。目に見える事業提携協議の成果はないままですが、この間、TBSの株価はいったんは下落したもののその後上昇していまは高値圏にあり、楽天にはかなりの含み益が発生しています。今後の展開を予測しました。

[保田隆明,ITmedia]

 先週、楽天の保有するTBS株式の信託期限が先月末で切れたというニュースが流れていましたが、本件、今後どうなるのでしょうか? 少し予測などしてみました。

 楽天がTBS株式を取得してから1年半になろうとしています。この間、両社は事業提携に向けての協議をしてきましたが、特に目立った形は出せていません。フジテレビ、ライブドアの時は大したものではなかったものの、すぐに外に見える形で事業提携を打ち出しましたが、楽天、TBSの場合は、外に見えるものはほぼ皆無です。その点、事業提携協議の難航具合が推察されます。

 楽天がTBS株式を取得した2005年後半から2006年前半こそTBS株価は高値推移しましたが、2006年年央から後半にかけては、TBS株価が楽天がTBS株式を取得した平均取得株価を下回る展開が続きました。楽天にしてみると1000億円も投じたのに事業提携は進まない、含み損を抱える、楽天の株価はTBSの株価以上に下落(下落率ベース)と、三重苦にあえぐ状態でした(「株高を維持するTBSの楽天に対する牛歩戦術」)。

 ところが、2006年年末にかけては、靴販売店企業のABCマートの会長がTBS株式を大量に取得する動きが表面化(現在は9%弱保有)し、それを受けてTBS株価は再び跳ね上がります。そして最近のTBS株価は4000円台に乗っています。楽天がTBS株式を取得した後に一瞬4000円台に乗せたことはありましたが、それを除いては約6年ぶりの株価4000円台です。前回はネットバブル時のことでした。

 それを受けて楽天には現在は含み益が発生しています。去年は一時は含み損を抱え、売ろうにも売れない状態だったのが、今は保有しているTBS株式を全部売却すれば数百億円の利益が楽天に入ってきます。楽天の2006年度の営業利益は300億円程度でしたので、それに匹敵する大きな売却益がTBS株式の売却で入ってくることになります。

 1年半経っても事業提携が全く進む様子がないのであれば、TBSの株価が上がっている今のうちにさっさと売却し多額の売却益を確保するのがいいのではないかと思います。なぜ楽天はTBS株式を売却しないのでしょうか。

 当初2005年秋に楽天がTBS株式を取得した時期、それはアメリカではYouTubeが立ち上がった頃です。当時はまだ目立ったインターネットと動画を掛け合わせたサービスは存在しませんでした。しかし、楽天がTBSと目立った進展を見出せていない間にYouTubeは世界を代表する動画サイトになり、約2000億円でGoogleに売却されます。

 YouTubeは確かに短期間で爆発的な人気を博しました。その事業モデルは「表面上は」素人の撮影したものなど著作権フリーの動画を皆で共有して楽しむ、というものです。しかし、実際は著作権を侵害する形で、テレビコンテンツがバンバンとアップされて、それが爆発的な人気となる原動力になりました。図らずもYouTubeにより、テレビコンテンツをインターネットで流せばみんな見るということが分かったのでした。

 これは、楽天がTBS株式を取得した2005年秋には、想像はしていたもののまだはっきりと見えていなかったことであり、それをYouTubeが実証してくれたことにより、楽天にとってTBSはより魅力度合いが増したと思われます。テレビの著作権を侵害しない動画サービスでアクセスを稼げているところはほぼ皆無です。それはテレビのコンテンツを利用しないことには動画サービスは難しい、逆に言えば、テレビのコンテンツを利用するポジションが築ければ、「インターネットx動画」で圧倒的に勝てる可能性があることをも示してもいます。

 ゆえに、たとえ売却すれば営業利益と同額の売却益が出たとしても、著作権法に触れない動画サービスで目立ったものが出てこない現状においては、楽天がTBSにこだわり続けるのは分からなくはありません。ただ、今のまま交渉を続けた結果、最終的に目立った提携には発展せず、株価も下がってしまって売却益もなくなる(もしくは再び含み損が発生する)ような局面が来る可能性も残っています。それでも売却しないのは、楽天が、数百億円の売却益に匹敵するぐらい、もしくはそれ以上にTBSを活用することによる「インターネットx動画」ビジネスが魅力的、潜在力あり、と判断しているということになります。もちろん今の値段が上がってしまったTBSの株価では、楽天が株式を売りたくても買ってくれる人が十分に出てこない可能性もありますが。

 日本人はYouTubeの大きな利用者層を占めており、その日本ユーザーがYouTubeにTBSをはじめとする日本のテレビ局のコンテンツを違法にアップした結果が、楽天がかたくなにTBS株式を保有し続けることにつながっているのかもしれません。

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)、『OL涼子の株式ダイアリー―恋もストップ高!』(共著:幻冬舎)、『口コミ2.0〜正直マーケティングのすすめ〜』(共著:明日香出版社)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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