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量子コンピュータって何? その2科学なニュースとニュースの科学

» 2008年07月18日 19時40分 公開
[堺三保,ITmedia]

 前回は、量子コンピュータの特徴について書いてみたが、肝心の「量子とは何か?」、そして「量子テレポーテーションとは何か?」については、まだ解説していなかった。今回は、量子とはどんなモノであるかについて、簡単に解説してみたい。

 “量子”について、辞書で調べてみると、広辞苑第六版には「不連続な値だけを持つ物理量の最小の単位」と出ている。要は、原子よりも小さく物質を分割したときの小さな粒子、例えば電子や光子(光の粒子)などは「量子」ということになる。

 では、「不連続な値だけを持つ」とはどういうことなのかというと、電子や光子などといったサイズの粒子は、それ以上分割できないため、そのエネルギー量は、1個分ずつ大きくなり、中間の値を持たないということだ。例えば、電子の持つエネルギー量は、電子1.5個分というような中途半端な値になることはないのだ。

 こう書くと当たり前のことのようだが、1905年に初めてアインシュタインが「光量子仮説」という仮説を立てて、こういう主張をするまで、光が波なのか粒子なのかで侃々諤々(かんかんがくがく)の議論となっていたのだ。

 「光の二重性」といって、光は波動の性質と粒子の性質の両方を持っている。このため、一体、光とは何なのか物理学者たちは頭を悩ませていたのだった。アインシュタインの「光量子仮説」は、「光は基本的には波だが、それぞれの波長ごとに、粒子のようにエネルギーの基本単位があって、それは分割することができない」とすることで、すっきりと説明をつけてしまったのである。

 ところが、さらにこの仮説を推し進めていくと、アインシュタインも気づいていなかったような、もっと奇妙な事実に突き当たってしまった。それが、ハイゼンベルクが1927年に提唱した「不確定性原理」である。

イラスト

 この原理を、やはり広辞苑第六版でひくと、以下のように記述されている。

量子力学の確率的性格は本源的・原理的なものであるという主張。1927年ハイゼンベルクが提唱し、位置座標と運動量のように一つの系の二つの物理量の測定に当って、両方ともに正確な値を得ることは原理的に不可能な場合があることを具体的に示した。不確定性関係。

 量子レベルの大きさの粒子は、先ほどから書いているように、波の性質も持っている。ということは、その状態は、波動関数と呼ばれる波の性質を表す数式で示されるのだが、これは複数の状態を取り得ることを確率的に示している。

 例えば、いろんな物質を構成する最小単位である原子は、中心に存在する原子核をいくつもの電子がとりまいているが、1個1個の電子のふるまいは、波動関数で表され、その位置と速度は確定できない。ある確率で原子核をまわる軌道上のどこかに存在するだろうということが言えるだけなのだ。

 ハイゼンベルクは、これを数式で証明してみせたが、同時に簡単な思考実験で、「なぜ量子の位置と運動量を正確に測れないか」を説明してみせた。

 物質を「観測する」=「見る」ということは、光を当てて、その反射によって、対象の物質を認識することだ。だが、電子のように小さな粒子、つまり量子レベルの物体を観測するためには、非常に短い波長の光を当てる必要がある。ところが、電子ほど小さいものに、そんな短波長の光を当てれば、光の持つエネルギーによって、電子が動かされてしまい、とたんにその位置も運動量も変化してしまって、元々の値など分からなくなってしまう。

 だから、量子レベルの極微小の物質の、位置(座標)と運動量を同時に正確に測定することなど、基本的に不可能なのだ、というのである。

 というわけで、量子というものは、ある確率で複数の状態を同時にとるものだということが分かってきた。これを「状態の重ね合わせ」という。

 前回、量子ビットというものを作りだせれば、それは通常のビットと違って、1と0の2つの値を同時に表現できると言ったのは、量子にはこの「重ね合わせ」という特徴があるからだ。これは、1と0の「2つの状態が現実に成立している」のであって、単純に状態が決まっていないというわけではないところが、量子のふるまいの奇妙な(そして、理解しがたい)ところだ。

 もちろん、問題は、この「重ね合わせ」の状態から、いかにして「解答」となる1つの状態を作り出すかにある。

 というわけで、「重ね合わせ」の状態を、1つの状態に「収縮」させるということと、それによって起こるとされる、さらに奇妙な現象「量子テレポーテーション」については、次回説明していきたい。

 なんか、書いてて自分でもすごく不安だけど、ついてきてよねー!

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