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AppleがGoogle Voiceを拒否した真の理由は?

» 2009年08月05日 09時25分 公開
[Andrew Garcia,eWEEK]
eWEEK

 AppleのApp StoreからGoogle Voiceアプリが却下されたことをめぐる騒動は、米連邦通信委員会(FCC)が首を突っ込む事態に発展した。Apple、あるいはAT&Tが波風を立ててまでGoogle Voiceを却下し、FCCと重要なパートナーの1社を怒らせるリスクを冒したのはなぜなのか、両社のスタンスが矛盾に満ちているのはなぜなのか、わたしはずっと考えていた。

 少し考えた後、答えがひらめいた。AppleはMobileMeに、Google Voiceと似たようなサービスを加えるつもりなのだ。

 まず、Google Voice――旧称「GrandCentral」――がどんなものかを説明しよう。

 現時点での構成では、GoogleはVoIP対応の中継ポイント兼ボイスメール受信箱で、複数の電話で1つの番号を使えるようにする。

 Googleはユーザーに電話番号を1つ割り当て、ユーザーはその番号にかかってきた電話を、好きな電話番号に転送するよう設定できる。自宅、オフィス、携帯電話の番号を設定すると、Google Voiceはユーザーにつなぐために、かかってきた電話を設定したすべての番号に同時に転送する。電話に出なかった場合、Google Voiceは留守録メッセージを受け取る。留守録メッセージは自動的にテキストに変換して、SMS(ショートメッセージサービス)や電子メールで送信することができる。あるいは、Google Voiceサイトにログインするか、電子メールのリンクをクリックしてメッセージを聞くことも可能だ。

 Google Voice経由で電話をかけることもできる。発信したい番号に加えて、通話を受ける電話も指定することが可能だ。

 Google VoiceはSkypeやGizmoとは違って、従来的な意味でのVoIPクライアントではない。同サービスはどこにでも通話を転送できるため、VoIPを使ってGoogleのネットワーク上で通話を転送するが、すべての通話は指定された通話先でPSTN(公衆電話網)あるいは携帯電話ネットワークに接続する。確かに、これにより携帯キャリアが課金できる通話は減るかもしれないし、ボイスメールシステムの利用にも影響するかもしれないが、実際はユーザーがどういう設定をして、どこで電話を受けるか次第だ。

 Google VoiceアプリがApp Storeから却下された件で、AT&Tがスケープゴートにされたのは自然な流れだ。このアプリがiPhoneにインストールされれば、いずれAT&T加入者の通話時間の減少につながり得るのは確実だ。だが、AT&TはGoogle Voiceに関してAppleに不満を言ったかもしれないが、自社のネットワークから完全にGoogle Voiceを追い出すようなことはしていない――同社はほかのデバイス(BlackBerry)のGoogle Voiceアプリを拒否していないし、Google VoiceのWebアプリ(www.google.com/voice)へのアクセスを遮断してもいない。

 長くGrandCentralを使ってきたユーザーなら知っているだろうが、GrandCentralのサイトはFlashを多用していたため、モバイルブラウザではほとんど使えなかった。モバイルユーザーは同サイトではメッセージをチェックできなかったし、iPhoneユーザーは留守録メッセージをダウンロードすることができなかった。iPhoneがその機能に対応していなかったからだ。

 しかし今年の春にGoogle Voiceが公開され、iPhoneのブラウザでもサイトがまともに動くようになった。メッセージをチェックしたり、設定を変えたり、電話をかけることができるようになった。デバイス上で動く(Google Voice)アプリがあれば、ユーザー体験はさらにすっきりと簡単になるはずだし、このアプリは電話帳とも統合されるだろう。ただ、Google Voiceをモバイルで使うのに、アプリが必須というわけではない。

 だが、Google VoiceがApp Storeに登場するのを阻止したいのがAT&Tだけなら、Appleは米国外で同アプリを承認し、米国ではリリースしなければいいだけではないだろうか。Appleが米国で承認したアプリを他国ではリリースしないケースはたくさんある(カナダでのSkypeとか)。Appleにその気があれば、逆のこともできるはずだ。

 その代わりに、AppleはGoogle Voiceアプリを「既存サービスとの競合」という理由で全面的に却下した。どのサービスと競合しているのかという具体的な説明もなしに。これまで(PodcasterアプリやNullRiverのテザリングアプリNetShareで)見てきたように、Appleは、たとえ却下の時点で類似のサービスを提供していなくても、遠慮なくこの口実を使っている。

 後で分かったことだが、Appleはこれらアプリを却下したとき、競合する機能を開発中だった。却下してからかなり後、同社はポッドキャストのダウンロードを昨年11月のiPhone OS 2.2で追加し、テザリングを今夏リリースの3.0に盛り込んだ。AT&Tが米国内でテザリング対応を表明していないのに、だ。

 こうした経緯を考えると、AppleこそがGoogle Voiceとサードパーティーの関連アプリ(GV Mobile)を拒絶した「主犯」であり、その理由はApple独自のワンナンバーツールを開発しているからだと考えていいだろう。Appleは、こんな騒動が起きる前は、来年初めにそのようなツールを発表するつもりだったのだろうと思う。

 今のMobileMeはつまらないし高い。その現実を受け入れよう。ストレージ容量は限られているし、無料のほかの通信サービスと似たり寄ったりだ。MobileMeの一番面白い機能――iPhone OS 3.0で導入された追跡サービス「Find My iPhone」――でさえ、Microsoft Exchangeも併用したい人にはまったく役に立たない。iPhoneではExchangeかMobileMeのどちらかだからだ。

 ワンナンバーサービスを加えれば、MobileMeの価値と使いやすさは大きく高まるだろう――市場での存続能力もだ。この市場はまだ新しいため(Google Voiceは招待制でしか利用できない)、Appleが増え続けるiPhoneユーザーを取り込めれば、すぐにかなりのシェアを取れるだろう。

 だがまず、Appleは一番得意なことをちょっとやっておかなくてはならない――エコシステム内の競争を抑えることだ。

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