第14回 仕事の泥沼から抜け出すためにできることストレスと上手に付き合うための心の健康

1人で仕事を抱え込み泥沼にはまってしまう前に、身近な誰かに電子メールで相談してみよう。書き方のポイントも紹介します。

» 2006年07月24日 12時47分 公開
[ピースマインド 田中貴世,ITmedia]

ビジネスパーソンが常に向き合わなくてはいけない“ストレス”。ピースマインドのカウンセラーが、毎回関連した話題を分かりやすくお届けする。危険信号を見逃さず、常に心の健康を維持していこう。


泥沼にはまってしまったKさん

 とあるプロジェクトに従事するKさんは、「自分の思うように仕事が進まない」と強く感じていました。顧客の要望が頻繁に変更され、要求項目もどんどん追加されるので、そのたびに作業の変更が発生するのです。

 プロジェクトのスタート時点ではメンバーは3人でしたが、1カ月が過ぎたところで1人が心身の不調を訴えて出勤してこなくなりました。その人の仕事はすべてKさんが引き受けさせられています。上司に窮状を訴えても、「納期は守れ」の一点張り。「自分だって戦線離脱したい気持ちだ」とKさんは思います。

 Kさんはこのことを誰かに相談したかったのですが、タイミングがつかめずにいました。周囲は皆忙しそうで、時間を取ってもらうのも気が引けます。

 それに、相談することで、相手から自分の力不足を指摘されないかと思うと心配でした。今後の自分の仕事の評価、査定に影響があるのではという不安もあります。Kさんの中には「自分が他人の力を借りなければ仕事が遂行できないような、能力のない人間だと認めたくない」という思いがありました。

 「自分なら頑張れるはずだ」。1人で抱えているうちに、気付くと仕事の泥沼に胸まで漬かって、身動きが取れない状況になってしまっていました。

 今回は、Kさんがはまってしまったような泥沼に近づかないための予防策として、「身近な誰かに相談する」ことを検討してみましょう。

身近な人に電子メールで相談してみよう

 読売新聞社が2006年5月に実施した「人間関係」に関する全国世論調査の結果が、6月12日の紙面に掲載されていました。

「人付き合いや人間関係が希薄になりつつあると思うか」との質問に

  • 20歳代 72.8%(前回59.2% 13.6ポイント増)
  • 30歳代 80.9%(前回73.5% 7.4ポイント増)
  • 40歳代 84.0%(前回77.1% 6.9ポイント増)
(カッコ内は前回2000年の調査時の結果および今回との増減値)

 との結果が出ています。人間関係の希薄化を感じる20代が増加していることが分かります。

 私にとって興味深かったのが、「職場ではどんな付き合いが望ましいか」という質問への回答でした。「私的なことも相談し合ったり、休日も遊んだりする付き合い」を選んだ人が全体(20歳代〜70歳以上)では約20%でしたが、20歳代で約28%、30歳代で約22%とほかの年代よりも高い結果だったのです。また「人生を豊かにするために、多くの人と信頼し合える人間関係を持つことが必要だと思うか」との質問には、全体で約95%の人が必要と答えましたが、20歳代では約99%に上っています。若い年代ほど、職場の人と相談し合えること、周囲と信頼関係を持つことを望んでいるといえます。

 そこで私は「あなたの身近な誰かを信頼して相談してみましょう」と提案します。方法として電子メールを活用することを考えてみます。

 今回の全国調査には「携帯電話メールでのコミュニケーションが増えると、人付き合いや人間関係にどのような影響があると思うか」という質問もあり、プラス面とマイナス面に分けた回答が掲載されていました。

プラス面 比率
コミュニケーションの回数が増え、人間関係が深まる 18.2%
互いに遠慮が少なくなるので、対人関係が積極的になる 8.7%
言葉を選んでやりとりするので、思いやりが深まる 10.1%
けんかをしたときに、謝るきっかけを作れる 13.4%


マイナス面 比率
都合のいい時だけ応対すればいいので、人間関係が表面的になる 28.8%
互いの表情が読みとれないので、誤解が多くなる 34.3%
自分の感情や思いを面と向かって伝えられなくなる 25.4%
常に誰かとつながっていないと不安で仕方なくなる 11.9%

 この結果は携帯電話メールに関するものですが、一部を参考にして仕事上の相談をするときのことを考えてみたいと思います。

相談の相手選びは距離感を考えて

 あなたが相談を持ち掛けるとしたら、相手選びは重要です。ポイントになるのは問題からの距離です。あなたの悩みからあまり距離の離れた人では、問題解決に力を借りることができません。逆に、距離が近すぎる人に相談するときは、感情をそのままぶつけて「苦情申し立て」になってしまい、人間関係がギクシャクして仕事がしづらくならないように注意が必要です。

 ただ愚痴を聞いてほしいときは、あえて距離の遠い人を選ぶことも1つの方法です。

 問題から程よい距離があり、かつ相談したら解決への何らかの糸口が見つかるかもしれない、そうあなたが期待できる人を見つけましょう。いま見つからなくても、そこであきらめないでください。自分の中で問題を整理するためにも、まずは相談のための文章を作ってみることをお勧めします。

相談の電子メールを作成する

 自分が仕事上使用しているPCから、相手の仕事上の電子メールアドレスへ送信する相談の文章を考えてみましょう。

 文章を作るときは、相手を不快な気持ちにさせない配慮ある書き方を心掛けること。これは人と接するときの基本姿勢ですね。

1.自分が誰であるか、内容がどんなものかを明記する

 件名は一目見て内容が分かるものにしましょう。

 例)A社「引き継ぎ情報の不足」について

   Bプロジェクト進ちょく状況について

 署名・社名(常駐先・社名)・部署名・連絡先電話番号などの必要事項、日付を忘れずに記入しましょう。


2.書き出しに相手を気遣う言葉を入れる

 例)××様

 ○○の田中です。

 先日のミーティングではお疲れさまでした。突然のことで失礼かとは思いましたが、今日はご相談したいことがありメールいたしました。


3.普段その人と話すときの言葉遣いで文章を組み立てる

 職場の上司や先輩が相談相手の場合、いんぎんになりすぎないように注意することで自然な流れができます。


4.自分の言葉で、簡潔に要点を押さえた文章にする

 複数の相談を整理せずに書きつづった文章では、受け取った人が「どれに答えればよいのか?」と迷ってしまいます。相談の要点を明確に伝えるためには、

下書き1 問題となる出来事を書き並べる

下書き2 その出来事から、問題となっている部分を書き出す

下書き3 問題の先に予測されるリスクを書き出す

 1回の相談で取り上げる問題はできれば1つ、多くても関連の問題を含めて3つまでにします。緊急度を5段階評価して、どこまでを相談するか検討しましょう。

 そこまで考えたところでもう一度、相談する相手がその人でいいかをチェックします。自分の人選に間違いはないと感じたら、下書き1、2、3をベースに要点をまとめた本文を作成しましょう。

 1行は30〜40字程度、文意の区切りには空行を入れます。1段落は6〜7行にまとめます。全体を短くまとめることで、余分ないい回しやいい訳が削られて、シンプルで分かりやすい出来上がりになると思います。


5.問題を起こしている当人であっても、特定の人を名指ししない

 いずれ話の流れで個人名が出るにしろ、最初から名指ししないことで告げ口をしている印象が薄らぎます。


6.誤解を与えるおそれのあるあいまいな言葉を避ける

 ほかに解釈のしようがない明確な表現を用いることで、誤解を避けることができます。

 あいまいな例)Aの件は、B部長に伝えていただけるとありがたいのですが、私が伝えた方がよいでしょうか。

明確な例)Aの件は、C課長よりB部長にお伝えいただきたく、お願いいたします。


7.反省すべき点は反省し、言葉で伝える

 自分にも責任の一端があると感じるとき、それを認めることには勇気がいると思います。でも認めたからといって、あなたの人間性が否定されるわけではありません。

 例)この件に関しては、私の確認の遅れが現状の停滞を起こしている要因の1つであると認識しています。申し訳ありません。今後は十分注意いたします。


8.どのような返事を期待しているのかを明記する

 例)活用できるリソースについての情報がほしい。

   人材の補充について相談に乗ってほしい。

   このトラブルについて、派遣先の誰に相談するのが適切かアドバイスがほしい。


9.相手への配慮を忘れない

 相手は、たくさんの電子メールの中の1通としてあなたの電子メールを読むことになるのです。相手の状況を配慮する言葉を入れましょう。

 例)お忙しいこととは思いますが、ご検討ください。

   お忙しいと思いますので、この件に関しては、次回ミーティングのときに相談に乗っていただきたいと思っています。この件は、次回ミーティングの議題にする予定です。××に本社に参りますので、そのときにお時間をいただけますでしょうか。

 相手は、あなたが期待するほど早く返信してくれるとは限りません。そのことを考慮すれば、緊急性のある相談事は電子メールによる相談には適さないかもしれません。しかし、電子メールで用件を事前に伝えておくことで、相談相手に資料や情報収集の時間的猶予を与えることになりますので、有効なアドバイスをもらえる可能性が高まります。


相談は、あなたの居場所を知らせるたいまつの明かり

 相談をすることで、いまあなたがいる場所を「身近な誰か」に知ってもらうことができます。それは日報や月報といった日常の報告以上に、あなたの現状や窮状の理解者を早めに増やすことにつながります。

 それが、沼地に足を踏み入れている自分自身の居場所をも照らしてくれる明かりになるのです。

 仕事の泥沼にはまってしまわないために、困ったことは1人で抱え込まずに誰かに相談してみましょう。タイミングがつかめないなら、まずは電子メールで伝えましょう。冒頭のKさんの例のようにならないように、早めに状況を知らせることが重要です。

 ここでは「あなたの身近な誰か」を相談相手に選びましたが、インターネットを通して匿名であらゆる悩みを専門家に気軽に相談できる場もあります。ピースマインドが提供しているオンラインカウンセリングは、ビジネスの問題解決的な相談だけでなく、職場の人間関係やメンタルへルス全般、夫婦や家族の問題など、広範囲の相談に専門家が対応しています(SSL暗号化通信により個人のプライバシーを保護しています)。「誰かに相談しよう」と思ったとき、選択肢に加えてみてください。

参考文献など 読売新聞社「人間関係」に関する全国世論調査 『季刊 こころケア 2005』(日総研出版刊)連載・Eメールの文章マナー講座(ピースマインド カウンセラー 岡部淳子著)
※本記事は「@IT自分戦略研究所」に掲載されたものを再掲載したものです。

筆者プロフィール ピースマインド 田中貴世

シニア産業カウンセラー、 日本産業カウンセラー協会認定キャリア・コンサルタント、日本オンラインカウンセリング協会認定オンラインカウンセラー、 家族カウンセラー協会認定家族相談士。子育て相談、保育士人材育成の仕事在職中にカウンセリングを学び資格を取得。転職支援センターのキャリアコンサルタントを経て、現在ピースマインドでカウンセラーを務める。職場のメンタルヘルス、キャリア、家族関係、夫婦問題とカウンセリング分野は幅広い。「カウンセラーは相談者の伴走者」と考え、「出会い」「気付き」の中に生まれるエネルギーに心動かされる日々だという。なお、ピースマインドが提供する「ストレスCheck」を@IT自分戦略研究所で試してみることもできる。


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