今年も薄紅に染まった“幻の恋人”がやってくるBiz.ID Weekly Top10

花見の席取りに新人が駆り出される季節がやってきた。気象庁によれば、3月25日は東日本の多くの地域で桜が堅いつぼみをほころばせる開花日。歌に詠んだ古人に、仕事を辞めて桜前線を追う現代人――今も昔も日本人の心を捉え続ける桜に迫る。

» 2008年03月25日 21時46分 公開
[豊島美幸,ITmedia]

 東日本で桜が咲いた。花見の席取りに入社2年目を迎える新人が駆り出される季節の到来だ。九州の一部の地域を除き、今年の桜は全国的に平年より1〜6日早い開花になるという。

似ているけど違う桜、桃、梅。桜は“花柄”が一番長い

さくらんぼのように、花から枝までを渡す長い“茎”があるのが桜

 ところでこの桜。席取り合戦をしてまでさんざん愛でているのに、咲く季節も姿カタチも似ていることから桃や梅によく間違えられる。かくいう筆者もよく桃と間違えてしまう1人だ。

 しかし見分け方はちゃんとある。花びらのカタチが違うからだ。桜は楕円をしていて先が割れているし、桃は同じ楕円でも先がやや尖っている。最も違うのは梅。2つに比べて全体的に丸い感じがするから一番区別しやすい。

左が桃で右が梅。花びらのカタチに注目だ

 花びらだけで見分けるには心もとない――そんな人には、さらに奥の手がある。実は桜は、ほかの2つと決定的に違う個所がある。それは、花びらの付け根から太い枝にかけて、「花柄(かへい)」と呼ばれる長い“茎”がついている点。

 一方、梅には花柄がない。花の付け根が太い枝に直接くっついているから、遠くから見ると節くれだった枝が目立って見える。桃も梅によく似ていて、花柄があるにはあるが短い。

 つまり桜だけ、一見して分かる長い花柄がついていて、これが房状になって先端に花を咲かすから、3つの花の中で一番ボリューム感がある。だから桜は、梅や桃よりも華やかでゴージャスなのだ。

 花びら、茎部分の花柄。この2ポイントから桜とそのほかの花を簡単に見分けられることが分かった。そんな桜は、昔から人々の目にどう映ってきたのだろう。

“永遠に手の届かない恋人”を追い、2年間で2万7000キロ旅した男

 『あしひきの 山桜花(やまさくらばな) 日並べて かく咲きたらば いと恋ひめやも』

 上の歌は万葉集で山部赤人(やまべのあかひと)が詠んだ歌。現代語にすると、「もし山桜が何日も咲いているのなら、こんなにも恋しいとは思わないでしょうに」といった具合。これに限らず桜に関する歌は多い。次の歌もその1つだ。

 『久方の ひかりのどけき春の日に しづ心なく花のちるらむ』

 こちらは古今和歌集に収まっている紀友則(きのとものり)の歌。現代語にすると「(風もなく)日の光がのどかにふりそそぐこの春の日に、桜の花はどうして落ち着くことなく、次々と散ってゆくのだろう」となる。小倉百人一首にも入っているから聞き覚えのある方も多いだろう。

 どちらも桜の花が咲く期間がほんの一瞬だからこそ生まれた歌。こうした有名な歌人から無名の「読み人知らず」まで、昔から桜は人々の心を捉えて離さない。現代では、仕事を辞めてまで桜前線を追いかける猛者がいる。

これが中西氏自らフィルムに収めた、最も“永遠に届かない恋の相手”。夢のように幻想的な、まさに絶景だ

 「モバイラー中ちゃんの気まぐれ桜旅」というサイトを展開している中西一登(なかにしかずと)氏がその人だ。毎年桜前線を追いかけ、西へ東へ南へ北へと車を走らせては、桜に向けてカメラのシャッターを切り続けてきた。最後に仕事を辞めたてから現在までの2年間だけでも、なんと2万7000キロの“桜旅”をしている。

 上の写真は、そんな同氏が最も惚れこんでいる青森県は弘前城の夜桜。全国のべ700カ所を超える桜旅をしているが、ここの桜は最も美しいという。氏によると、花のボリュームを左右するのが手入れ。例えば東京都内では、将来花になる「花芽(はなめ)」というところから数花しか花を付けないのに、弘前城の桜は手入れがよくされているため、多い場合でその倍、花を咲かせることもあるのだ。

 同氏にとって桜とはなんだろうか。ズバリ聞くと次のような答えが返ってきた。

 「“永遠に手の届かない恋の相手”。最高の桜にはなかなか逢えませんし、もし逢ったとしても、もっといい桜があるかもしれない――いつもそう思っているからです」

 いやはや、なんとも深いコメントである。現在は仕事に就いている中西氏だが、5月までひたすら桜を追いかける“繁忙期”に差しかかった。この数カ月はまさにこの世の春だろう。

 あなたも仕事を辞める――とまではいかなくとも、机にかじりついてPCのキーをたたく手をしばし休め、淡いピンクの世界に酔いしれてみてはいかがだろうか。そのほうが仕事もかえってはかどるかもしれない。

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