働き方改革は、労働時間(残業時間)の短縮、労働生産性の向上など企業目線で語られることが多く、「働かせ方改革だ」といった皮肉な意見まであります。それよりも「従業員の経験価値(Employee Experience)」を中心に置いた職場環境を目指すべきだと、野村総合研究所(NRI)は考えます。
企業の経営管理制度の構築や「働き方改革」の設計・運用を支援する黒崎浩氏に、今後の改革で重視すべき点について聞きました。
――「働き方改革」に取り組んできた企業は今、どのような課題を抱えていますか?
改革は当初、「早く帰宅せよ」と号令をかけ、残業時間を減らす取り組みから始まりました。さらに、無駄な仕事の削減や、ロボットを使った自動化などに着手し、それなりに成果が出始めています。
ところが、ここにきて「業務の効率化が果たして改革のゴールなのか」「削減した分の時間でより創造的な仕事をしようと口先では言うが具体性が伴っていない」という声が聞かれるようになりました。今後の働き方改革をどう進めるかを考え直す段階にあると思います。
そこで提案したいのが、働き方改革の目標を、「従業員経験価値(Employee Experience:EX)」の向上、つまり従業員が会社・仕事を通じて体験する価値の向上に置いて職場環境を整備することです。
人事の領域ではここ数年、EXが高い職場には優秀な人材が集まり、高いパフォーマンスを発揮し、長く働き続けるとして、EXに着目する動きがありました。一方、従来の働き方改革では、個々人の時間管理を強化して生産性を高めようとする中で、従業員満足や経験価値が犠牲になることもあったのです。
――相反する側面がある中で、なぜ従業員経験価値(EX)と「働き方改革」を結び付けようと思ったのですか。
働き方改革に取り組む企業の中には、生産性や効率性だけではなく、もう少し社員のモチベーションなども考慮すべきだという考え方があること。それから、米国などで最近よく聞かれるようになった「デジタルワークプレイス」という概念でも、EXが中心に置かれています。新しい働き方を考えていく際に、このデジタルワークプレイスの概念を取り入れられないかと思ったのです。
――デジタルワークプレイスと言うと、便利なIT機器を揃えてコミュニケーションの協働を促すスペースづくりというイメージがありますが。
そうした物理的なアイテムばかりが注目されますが、デジタルワークプレイスはもっと広い概念です。ITだけでなく、従業員の成功・達成を支援するパフォーマンス・マネジメント、常に業務を変革していくことをめでる価値観、カルチャーを醸成・変革する施策もデジタルワークプレイスを構成すると考えることが大切です。
従業員が良い経験価値を得ながら働ける「舞台」としてデジタルワークプレイスを捉えれば、働き方改革の文脈で、さまざまな施策を総合的に展開できるのではないかと考えています。
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