ユビキタス社会の光と影がかいま見えた日本SGIのセミナー

日本SGIは12月15日、「日本SGI ブロードバンド・ユビキタス・ソリューション 2004」を都内にて開催した。絵空事ではない最新のソリューションを求める観客が多数来場した。

» 2004年12月16日 01時39分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 日本SGIは12月15日、同社が現在、最も注力している「ブロードバンド・ユビキタス・ソリューション」での取り組みをユーザーに知ってもらおうと「日本SGI ブロードバンド・ユビキタス・ソリューション 2004」を都内にて開催した。

 同イベントでは、「ブロードバンド・ユビキタス・セミナー」、「ユビキタス・モニタリング・ソリューション・セミナー」、「情報セキュリティ・ソリューション・セミナー」とテーマ別のセッションが行われたほか、「ViewRanger」や「ST」などが展示されていた(以下の写真はクリックで拡大します)。

こちらは、14日に発表された地盤災害映像監視ソリューションシステム。左側の岩に機器から伸びた線がつながっている。地盤が移動するなどして岩が動くと、機器がそれを検知、ViewRangerにつながれたカメラで状況を確認できる

下の模型に対し、モニターではヘリや戦車などのCGが組み合わさっている。模型に対する当たり判定などもあり、実写とCGの融合が進んでいることが分かる

こちらは参考出品されていたViewRangerの改良版、CPUなどを高速化したほか、CFカードスロットを2つ備える。また、インターフェースも増えている

エンドユーザーの声を聞けなくなると企業は死に絶える

 基調講演では、日本SGI代表取締役社長兼CEOの和泉法夫氏が登場、わずか10年ほどで大きく様変わりしたブレードバンドの歴史を語りながら、常に最先端分野のそのまた先頭を走ったSGIを振り返った。同氏が語った内容の概要については、別途和泉氏にインタビューを行ったこちらの記事を参考にするとよいだろう。

和泉氏 「画像の技術とスパコンのパワーを兼ね備えたソリューションを提供する」と和泉氏

 同氏が観客に見せたビデオは、NTTと手を組んで行った千葉県浦安市での実証実験に関連したプロモーションビデオだった。この実験は、1990年代、米クリントン-ゴア政権の目玉政策といわれた情報スーパーハイウェイ構想に関連したものだが、結局インフラ整備の面でコストがかかりすぎるため、実験で幕を閉じたものだ。

 インフラの整備がネックとなって挫折したとはいえ、それはSGIの技術に問題があったわけではない。むしろ、その映像伝達関連の技術力は当時も高く評価されていた。ビデオでは、(当時としては)洗練されたGUIから知りたい情報を選択することで、その情報がVOD(ビデオオンデマンド)で配信されるといったような内容であったが、「言われなければ、これが10年も前に作られた映像とは分からないかもしれない」と和泉氏が話すとおり、その先進性には観客も魅せられていた。

 そして時代は流れ、当時ネックであったネットワークもブロードバンド環境が一般的になった。当時目指した世界が、まさに今存在していると和泉氏は話すが、ブロードバンド・ユビキタス社会に根ざす光と影についても警鐘を鳴らす。

「いつでもどこでもネットワークとつながるということは、いつでもどこでも情報が盗まれる時代になったともいえる。ユビキタスのいい部分がフォーカスされるが、そんなに美しい世界ばかりではない」と和泉氏。これからのセキュリティは1社でまかなえるものではなく、アライアンスを組むなどして全方位的に対応していく必要があると話す。

 それまで時代を先取りすぎて波に乗り切れていなかったことを反省し、「これからは一歩先にとどめ、今日のソリューションに役立つものを提供していく」と話す和泉氏は続けて「エンドユーザーのニーズによく耳を傾けることが重要でそうしないと企業は死に絶える」と先日発表されたIBMのPC部門売却を憂慮するコメントを残しつつ、ハードにこだわることなく顧客の望むソリューションを提供する日本SGIをアピールして場を後にした。

IT革命はアメリカが主導した軍事技術の軍民転換

 その後に登壇したのは、三井物産戦略研究所で所長を務める寺島実郎氏。同氏は、世界潮流とIT革命の総括をテーマとし、さまざまな示唆に富む講演を行った。

寺島氏 「日本海がユーラシアダイナミズムをつなぐ内海化する」と予見する寺島氏

 同氏は世界潮流を最初に述べた。現在の世界情勢は、「人類史上初の高度成長の同時化」が進んでいるという。各国が異常とも思える高度成長を遂げている状態だが、ここで日本の中身を見ていくと、日本は中国に依存して景気を回復しようとする構図がクッキリと浮かび上がっていることを指摘する。

 また、世界有数のGDPを持つ日本のはずが、港湾物流を見ると、世界で15位以内に入っている港が国内には存在せず、特に太平洋側の港の空洞化が著しいと述べる。このことは、外交や通商といえばアメリカを漠然と思い浮かべる意識がもはや誤っていることを意味している。

「香港やシンガポールなどが今の物流の中心。中国や台湾などとともに、大中華圏というべき場所こそ今注意しなければならない場所。また、ロシアもアラブ諸国を越える産油量を手に、かつての力を取り戻しつつある。アメリカのほうを見ている間に、世界は大きく変わっている」(寺島氏)

 また、IT革命についても同氏は、「アメリカが主導した軍事技術のパラダイムシフト」であると総括する。インターネットもGPSも軍事技術に端を発するものであるのに、その本質に目を向けることなくやり過ごしていることについて、今こそセキュリティ意識を高く持って考え直すべきではないかと訴えている。

 さまざまな事実を交えた意見は、会場にいた多くの観客を1時間集中して聞かせるだけの説得力を持ったもので、終了後は、盛大な拍手に迎えられていた。

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