薬局はサービス提供の場、ソフトウェアが効率化を実現

医療機関に経営コンサルティングを提供するネグジット総研は、保険薬局の店舗経営を支援するツールを開発した。フィードパスの「サイボウズ デヂエ for SaaS」をカスタマイズしたこのツールは、店舗間のコメント機能などを生かし「考える経営」を実現する。

» 2009年04月01日 08時00分 公開
[杉浦知子,ITmedia]
ネグジット総研 山下善史氏

 「保険薬局を取り巻く状況が変化しつつある」――こう指摘するのは、ネグジット総研で経営コンサルティング事業部のマネジャーを務める山下善史氏だ。ネグジット総研は薬局、病院などの医療機関に経営コンサルティングサービスを提供している。主な顧客は保険薬局で、経営目標やアクションプランの設定の仕方などをコンサルティングし、経営計画の策定・実行の支援をする。人事業務における評価方法の設定やマニュアル策定の支援、マネジメントの研修などにも対応している。

 保険薬局とは健康保険を使った処方箋の受付ができる薬局で、病院に併設されていたり病院の近隣に建てられていることが多い。「薬局に訪れるお客様は病院から処方箋を持参する患者さんが多く、保険薬局は比較的受け身の経営をしてきた」と山下氏。保険薬局を取り巻く環境の変化とは、どのようなことが起こっているのだろうか。

 まず、2008年4月に行われた調剤報酬の改定が挙げられる。保険薬局は薬代を除いた調剤報酬の収入で経営しているため、調剤報酬の引き下げにより利益率が低下しているという。薬剤師の不足により人件費が高騰していることも保険薬局の経営を圧迫していると山下氏は指摘する。これらの経営の圧迫に加えて「従来患者さんは『薬をもらえたら満足』と思っていたが、薬局に対してサービスを求めるようになってきている」という。患者自身が薬局を選ぶようになると保険薬局間での競争が起こるのだと言い指摘し、「薬局は患者の需要に応える経営をしなければならない」と話す。

 保険薬局の競争を生き残るためには「薬局長のマネジメント意識を高める必要がある」と山下氏は言う。薬局とは店舗であり、店舗ビジネスではほかの店舗との競争に負けない経営をしなければならない。保険薬局はこれまで行政で保護されてきた部分もあったため、競争の激しい業界の店舗のように厳密なマネジメント意識は求められていなかったのが現状だ。

 ネグジット総研ではこのような保険薬局に求められている「経営力」を強化するためのコンサルティングを提案していく中で、コンサルティングサービスを効率化し、サービスを受ける薬局が抱える経営環境の問題を解決できないかと考えた。コンサルティングには時間や人的リソースが必要となり、コンサルティングに掛かる費用も決して安くはない。「従来から、ITを使って効率化できないかという課題があった」と山下氏。そこで、店舗のマネジメントを支援するツール「PharmacyDB powered by サイボウズ デヂエ(PharmacyDB)」を開発した。

「サイボウズ デヂエ」が薬局経営のコンサルティングを支援

 PharmacyDBは、フィードバスがSaaS形式で提供するサイボウズのWebデータベース「デヂエ for SaaS」をカスタマイズしたもの。ネグジット総研は、コンサルティングのサポートツールとして薬局に再販する。

 同製品の初期設計はフィードパスが担当した。ネグジット総研から、コンサルティングに必要な機能やツールを聞き出し、同社が持つコンサルティングのノウハウをデヂエ上に盛り込んだ。ネグジット総研は、PharmacyDBの機能を拡張、追加しながらエンドユーザーへの付加価値を高めていくという。「薬局の生の声を聞きながら自分たちで組みなおしていけるのが嬉しい」と山下氏は言う。

 PharmacyDBは、マネジメントに必要な要素を備えている。日次、月次、四半期、半期、年次、随時のライブラリDBを持ち、売り上げや来客人数、クレームなどを日々記入できる。半期、四半期ごとに集計、管理でき、サービスレベルをチェックするシートも備える。

(左)ヒヤリハット・クレーム報告&集計シート (中央)月間数値予実管理シート (右)薬局長日報

 「複数店舗を経営する薬局のマネジメントにおいては、店舗間で共通の指標を持つことが必要」と山下氏は言う。「良い悪い」「増えた減った」などを判断をするために共通指標、共通の軸が必要なのだ。「店舗から情報を自由に発信する場も必要」という。店舗は独立しているため、店長はほかの店舗の店長と話をする機会がない。「店舗管理の悩みなどを気軽にアドバイス、相談できる場が必要だと考えた」(山下氏)。これらの施策を実現するには、インターネットを使ったシステムが良いと考え、SaaS形式のシステムを選択した。「みんなで相談しながら店舗を良くしていこうといった風土が生まれたらいいというのがコンセプト」と山下氏。

 売り上げなどの数値だけでなく、日々の運営で気づいたことをコメントとして書き込める機能が大きな特徴だ。コメントを記入することで他店の状況も分かり、コメントに返事をすることで情報を共有できる。「社長の指示通りに動く組織ではなく、考える組織を目指す」ことをシステムを通して提供していきたいという。

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