わが社のコスト削減

クラウドは万能か――富士ソフトの苦悩と解わが社のコスト削減(2/4 ページ)

» 2009年05月19日 08時30分 公開
[藤村能光,ITmedia]

社内の抵抗勢力を説き伏せた「クラウドのコスト削減力」

 クラウド型サービスの導入を決めたが、「社内での抵抗勢力は多かった」(山本氏)。Google Appsを使うと、Googleが世界で運営しているデータセンターに、個人情報や機密情報を預けることになる。「システム障害が起こっても社内なら迅速に対応できる。だがクラウドでそれができるのか。またデータの検索に長けたGoogleに重要情報を預けるのが望ましいのか」(同氏)。こうした不安が経営層などの間でうずまいていたという。

 経営層にクラウド型サービスの理解を得るために効力を発揮したのが、「コスト削減」という名目だった。

 約1万人の従業員のデータ容量を自前で確保するには、設備投資費と人件費がかさむ。電子メールの場合、ユーザーが個別に不要なメールを削除しない限り、容量は圧迫され続ける。一方で、富士ソフトが採用したGoogle Apps Premier Editionは、1ユーザー当たり25Gバイトのメール容量が割り当てられる。ストレージなどの管理もGoogleに任せることが可能だ。コスト面、管理者の負担を減らせる面で、クラウド型サービスには一日の長があった。

 またGoogle Appsは、文書や表を作成するオフィスソフトも搭載している。これを使うようにすれば、既にインストールしているMicrosoftのOfficeがバージョンアップしても、追加コストを支払わなくていい。

 「バージョンアップしたMicrosoft Officeに(1万人規模の)ライセンス費用を払う場合、年間2〜3億円が掛かる。このコストを削減できるという試算もある」(山本氏)。OfficeをすべてGoogleのドキュメントツールに置き換えるかは未定だが、ライセンス費用という余分なコストをカットできるメリットは、経営層には響きやすい。

Google Apps導入のスケジュール Google Apps導入のスケジュール(提供:富士ソフト)

 2008年6月に500ライセンスを取得し、社内の一部で試験運用を始めた。実際に使いながら、クラウドが情報システムとして使えるかどうかをつぶさに検証していった。罫線のつながりや漢字の印刷など、利用における細かな点も確認した。セキュリティを担保できる仕組みを整備できたことに伴い、12月に1万アカウントを取得した。2009年4月に、非正規社員や派遣社員を含む1万人が使うシステムの運用を開始した。

 富士ソフトは今後3年をめどに、電子メールに加え、スケジューラーや文書管理などの機能も、Googleをはじめとするクラウドサービスに集約していく計画だ。「(社内の情報系システムの)ハードウェア、ソフトウェア資産、それに掛かる運用コストをなくす」(山本氏)ことで、業務アプリケーションをすべて含めた情報系システムを自社で運用する場合に比べて、5年間で数分の1に減らせるという。

 同社は、1万人という大規模でクラウド型サービスを導入し、自社運用のシステムがもたらしていた「無駄を生み出すコスト構造」にメスを入れていった。

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