わが社のコスト削減

クラウドは万能か――富士ソフトの苦悩と解わが社のコスト削減(1/4 ページ)

クラウドの台頭に伴い、情報システムを「利用」する動きが広がりつつある。Google Appsの本格運用を4月に開始した富士ソフトもその潮流に乗った1社だ。だがクラウドは万能ではない。同社が運用までに体験した経緯、そして導きだした最適解を追う。

» 2009年05月19日 08時30分 公開
[藤村能光,ITmedia]

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 「Googleで変えたい」――富士ソフトは2008年6月、Google Appsの企業向けサービスを販売する代理店としてGoogle日本法人と契約を結び、こう意気込んだ。独立系ソフトウェアベンダーとして手に入れたクラウド型のキラーサービスで、利益拡大に向けて積極攻勢に出ている。一方で、自らGoogle Appsを社内に導入し、4月から従業員1万人以上が使うシステムとして運用している。

 クラウドコンピューティングの普及に伴い、情報システムが「所有」から「利用」する形態に変わり始めている。だが変化には痛みが伴う。富士ソフトでは1万人の大規模でクラウドを使いコスト削減効果を生み出した反面、サービスの提供形態がもたらす利便性や管理面の面では課題を残した。本格運用までに富士ソフトが経験した経緯、そして導き出した最適解を追った。

社外勤務者の情報過疎をなくす

 「社外勤務者の“情報過疎”をなくしたかった」

 富士ソフト技術本部の田中尚本部長はGoogle Appsの全社導入に踏み切った背景をこう明かす。導入に至った経緯は大きく分けて2つある。1つは社内からしか利用できなかったメールシステムの入れ替えという情報システム運営の観点。もう1つは、実際に提供しているGoogle Apps関連のサービスの売り込みに自社運用のノウハウを生かすという営業戦略の観点だった。

 同社は6500人超の正社員を抱える大手のソフトウェアベンダーだ。その6割程度がシステム開発におけるユーザー企業への常駐や営業など、社外での勤務を担当している。だが彼らが社外から電子メールやスケジューラーを確認することはできなかった。

 富士ソフトでは、「各種サービスのノウハウを蓄積するため」(田中氏)に、部署やオフィスごとに担当するサービスのシステムを構築。Exchange ServerやLotus Notes、UNIX系のシステムを部門ごとに運用していたが、それらの統制が取れていなかった。また、システムエンジニアが常駐する金融機関などのユーザー企業は従業員以外からの情報漏えいを恐れ、「インターネットやVPN(仮想私設網)の接続を認めない場合も少なくなかった」(同氏)

 結果として、従業員は会社に行かないと勤怠入力や交通費の精算ができなかった。乱立するスケジューラーを共有できず、わざわざ電子メールを使ってお互いの予定を送り合うといった無駄も生じていた。富士ソフトで情報系システムを管理する担当者は、ユーザー企業からの規制と社員から使い勝手に対する要望で、板挟みになっていたという。

富士ソフト内でGoogle Appsを使う様子 富士ソフト内でGoogle Appsを使う様子

 「1日の大半をユーザー企業先で過ごす社員も多い。こうした社員にオフィスにいるのと同じレベルで情報を活用してほしかった」(田中氏)。社外からも安全にアクセスできる仕組みを急ピッチで整え、社員の業務効率も上げる――経営層からは、こうした情報システムを早急に整備することを求められた。

 富士ソフトが情報システムの刷新に選んだのはGoogle Appsだった。ほかのクラウド型サービスは考えなかったという。同社はGoogle日本法人と販売代理店契約を結んでいるからだ。

 同社は2008年6月、企業向けアプリケーションスイート「Google Apps Premier Edition」の販売代理店になった。「サービスを売る側がその内容を理解していなければ(ユーザー企業に対する)説得力がない」(技術本部経営システムセンターの山本淳センター長)と考えるのは当然だった。こうしてGoogle Appsを自社で運用し、Googleで社内を変える道を選んだ。

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