現場で効くデータ活用と業務カイゼン

阪大の産学連携プログラム、受講生管理はFileMakerで「環境リスクマネジャ」を育成(1/2 ページ)

新しい仕組みを作り上げていくために試行錯誤を続けるような性質の業務においては、柔軟性に乏しい業務アプリケーションでは対応しきれないケースがある。大阪大学では、こうした用途にFileMakerの使い勝手や開発性の高さを役立てているようだ。

» 2009年06月24日 08時00分 公開
[岡田靖,ITmedia]

社会人に対し環境リスク管理の実務教育を主導

大阪大学工学部/大学院工学研究科 環境・エネルギー工学専攻 地球循環共生工学領域 松井孝典 助教 大阪大学工学部/大学院工学研究科 環境・エネルギー工学専攻 地球循環共生工学領域 松井孝典 助教

 大阪大学では現在、大学院を社会人が受講しやすくする取り組みが進められている。「環境リスク管理のための人材養成」プログラムだ。このプログラムで、授業内容や受講者、協賛企業などの情報を管理するために、FileMakerが採用されている。

 「環境リスク管理のための人材養成」プログラムは、学術振興支援をはかる新興分野の一つとして文科省が掲げた「環境管理」に対応するものとしてスタートした。環境に関する学問の重要性は世間一般にも広く認知されており、さまざまな技術や手法が新たに開発されてきているものの、全体を見渡す学術的な体系や、企業などで役立つ実戦的なスキル体系の整備が進んでいない分野である。

 そこで大阪大学では、環境対策とリスクマネジメントの両方の側面を持つテーマとして「環境リスク管理」を掲げて取り組むことにした。環境問題に取り組む上では、単に現状の課題を解決するのみならず、将来に生じるであろう課題を見極め、それを予防するといった観点も欠かせない。こうした大局的な視点を養い、かつ企業などで実際に役立てられるような、実務的な観点も盛り込んだカリキュラムを作ろうというのである。

 そして同時に、「環境リスク管理のための人材養成」プログラムは、社会人向けの大学院のあり方を模索する試みにもなっている。

 「欧米とは異なり、日本では社会人が気軽に大学院の授業を受けられるような環境が整っていません。科目ごとの受講をするケースは少なくありませんが、全体を通して授業を受ける社会人はほとんどいないのが現状です」と話すのは、このプログラムを運営する大阪大学工学部/大学院工学研究科 環境・エネルギー工学専攻 地球循環共生工学領域の松井孝典 助教だ。

 「社会人が大学院で容易に勉強できる環境を作り上げ、人材育成を通じて産業界に貢献することも、大学の重要な役割です。今回のプロジェクトで取り上げたテーマは、『環境』と『リスク管理』のどちらの切り口からでも、企業活動に役立つ内容として期待できると思います」(松井氏)

Excelでの管理では業務が混乱、使いやすいデータベースが必要に

大阪大学工学部/大学院工学研究科 環境・エネルギー工学専攻 「環境リスク管理のための人材養成」プログラム 織田朝美 特任研究員 大阪大学工学部/大学院工学研究科 環境・エネルギー工学専攻 「環境リスク管理のための人材養成」プログラム 織田朝美 特任研究員

 プログラムは2004年にスタート。同年10月から半年ごとの授業を行い、5年間に渡って開設する計画だという。毎期200〜300人の受講生を受け入れ、大阪大学のみならず民間企業を含めた外部の講師も招いて最大十数科目の講義を行う。この結果を期ごとに見直し、科目構成や授業内容へフィードバックしていく。

 プログラムを進行させる上で欠かせないのが、カリキュラムや受講生などの情報の管理だ。また、企業への広報活動を行っているため、その企業の情報も管理しなければならない。こうした情報を、プログラムの事務局ではExcelワークシートを使って管理していたという。

 しかし、「カリキュラムを管理する」と一口に言っても、それぞれの科目のシラバスや講師の情報など複数の要素が組み合わさった情報である。受講生に関しても、住所やメールアドレスなど基本的な情報から、履修科目や出欠状況、成績など多彩な情報を管理せねばならない。管理すべき項目が非常に多岐に渡るため、常時8種類ほどのワークシートが作られ、それらが相互に参照し合うような構成となっていった。そのことが、事務局内で大きな課題となっていく。

 「ここでのカリキュラムは、まだ完全に固まっていないナマモノなので、内容も都度変更されます。しかも、当初は1人のスタッフが使っていたExcelワークシートを何人ものスタッフで共有することになり、管理が大変になっていきました。2005年の中頃から、“何とかしないと”という危機感がありました」と松井氏は振り返る。

 事務局側のスタッフが異動することもある。複数人がそれぞれに手を加えていった結果、ワークシートの構造を完全に把握しているスタッフがいないという状況に陥ってしまったという。

 大阪大学工学部/大学院工学研究科 環境・エネルギー工学専攻 「環境リスク管理のための人材養成」プログラムの織田朝美 特任研究員は、そんな状態のところに参加することになって「正直、当惑しました」と話す。

 「わたしが参加したのは2006年のことです。事務局業務は進めなければならないので、Excelを“だましだまし”使っていました。ですが、それにも限界がありました」(織田氏)

 そうしているうちに、いよいよトラブルが発生したのだ。

 「ある時、排他処理のバグが原因か、データのリンクが飛んでしまったのです」(松井氏)

 相互に関連し合った複数のワークシートに対し、異なるユーザーから同時に編集が行われた場合などに、そうした危険があり得る。このトラブルを機に、きちんとしたデータ管理の仕組みを作ることが決まった。外部に委託し、本格的なシステムを作り上げようというのである。2008年の春頃のことだった。

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