日本企業は「GAFAのまねをせずに」グローバルで勝てるのか 組織、システム設計から考える「日本ならではの戦い方」CIOへの道【フジテックCIO 友岡氏×クックパッド情シス部長 中野氏スペシャル対談】(1/4 ページ)

平成元年、日本企業は世界時価総額ランキングに7社が名を連ねていたが、平成30年には1社もランク入りできないという事態に陥っている。日本企業は今後、“日本らしさ”を生かした戦略で勝つことができるのか、それとも勝ち組北米企業のやり方をトレースするしかないのか……。

» 2019年02月14日 08時00分 公開
[後藤祥子ITmedia]

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この対談は

クラウド、モバイル、IoT、AIなどの目覚ましい進化によって、今やビジネスは「ITなしには成り立たない」世界へと変わりつつあります。こうした時代には、「経営上の課題をITでどう解決するか」が分かるリーダーの存在が不可欠ですが、ITとビジネスの両方を熟知し、リーダーシップを発揮できる人材はまだ少ないのが現状です。

今、ITとビジネスをつなぐ役割を果たし、成功しているリーダーは、どんなキャリアをたどったのか、どのような心構えで職務を遂行しているのか、どんなことを信条として生きてきたのか――。この連載では、CIO(最高情報責任者)を目指す情報システム部長と識者の対談を通じて、ITとビジネスをつなぐリーダーになるための道を探ります。


フジテック 常務執行役員 情報システム部長 友岡賢二氏プロフィール

1989年松下電器産業(現パナソニック)入社。独英米に計12年間駐在。ファーストリテイリング業務情報システム部の部長を経て、2014年フジテックに入社。一貫して日本企業のグローバル化を支えるIT構築に従事。


クックパッド コーポレートエンジニアリング部 部長 兼 AnityA 代表取締役 中野仁氏プロフィール

国内・外資ベンダーのエンジニアを経て事業会社の情報システム部門へ転職。メーカー、Webサービス企業でシステム部門の立ち上げやシステム刷新に関わる。2015年から海外を含む基幹システムを刷新する「5並列プロジェクト」を率い、1年半でシステム基盤を構築し直すプロジェクトを敢行した。2018年、AnityAを立ち上げ代表取締役に就任。システム企画、導入についてのコンサルティングを中心に活動している。システムに限らない企業の本質的な変化を実現することが信条。


 「日本にCIOという職業を確立させる、それが私のミッション」――。その言葉通り、日本全国津々浦々の“お座敷”で講演を行い、CIOの必要性を説いているのがフジテックのCIO、友岡賢二氏だ。CIOが果たすべき役割とは何か、選ばれるためにはどんな経験や考え方が必要なのか――。

 前回のテーマ「素早い意思決定をするための組織作り」に続いて、今回は「日本企業が『GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)のマネをせずに』北米企業に勝つ方法」というテーマで話が進んだ。

フジテック CIOの友岡賢二氏(画像=右)とクックパッド情シス部長の中野仁氏(画像=左)

日本企業は北米企業と戦って勝てるのか

中野氏 海外で勝つためのシステムを構築する「5並列プロジェクト」が一段落した今、ずっと考えているのが、「日本企業は北米企業と戦って勝てるのか」という問題です。

 このプロジェクトを始めるときに、社長から「とにかく日本の会社だと思わないでほしい。グローバル企業のつもりでシステムを組んでほしい」と言われたんです。

 そういう背景があったので、お手本として想定しているのが、グローバルで勝っている北米企業なんですよ。エンタープライズ、コンシューマーを問わず、海外で勝っているテクノロジー企業の多くは北米企業ですから、クックパッドが海外進出をメインテーマに据えるなら、最低でも北米企業と肩を並べるくらいにならないと話にならない。でも、会社の仕組みを知るたびに、「虎とにゃんこ」ほどの実力差があるとしか思えないんですよね。

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 「CIOを中心に、One Policy、One People、One Processの思想の下でグローバルで戦うぞ」というノリと、「プラットフォームで特定領域を全部取ったぞ」という迫力で迫ってくる北米勝ち組企業に対して、合議モデルによる日本的な組織体で勝負できるのか、という不安があります。

友岡氏 「意思決定の速さ」という観点で見ると、話し合って決めるのが前提の「民主主義」は、意思決定がすごく遅くなるんですよ。トップが決めたことを下に落とす「独裁主義」の方が圧倒的に早い。それでも時間をかけてでも民主的に意思決定することのメリットは、「参加意欲が高まる」「納得して進められる」「決まった後の実行は早い」という3つがあるんですね。

 意思決定する際に最も重要なのは、「コンセンサスマネジメント」だと言っているんです。日本語で言うと「納得の醸成」ですね。正しいといってもいろんな正しさがあるわけで、「これは絶対的に正しい」というものがない場合があるじゃないですか。こちらにはこっちの言い分があるわけで。じゃあ実際に行動するときに、本当に「分かった、じゃあ、やろう」という「腹落ちした感じになるための仕掛け」は絶対に必要なんですよ。

 グローバルでガバナンスを効かせるときに、単に「これは上が決めた決定事項です」とポンと落とされても、現場ではものすごく感情的なあつれきが起こる。かといって、小さな組織の不満にいちいち付き合っていると意思決定が遅くなってしまう。“納得のマネジメントシステム”をいかに創るかが重要で、そういう意味で私が参考にしているのが欧州モデルなんですね。EUの意思決定がまさにそうですからね。

 EUがどうやって意思決定してるかというと、最後は多数決なのですが、大国と小国では投票するときの持ち票数(ウェイト)が違っている。独仏英伊とか、やはり強いわけですよ。でも小国の意見にも耳を傾けるし、大国だけが望む結果は可決されない。だから、実は議論にすごく時間がかかるのですが。

 感覚的な話になりますが、日本の企業統治は、「こうした欧州モデルの方が落ち着きはいい」と思っています。ただ、それが社長からすると、目指すのはトップダウン方式だといったときには、そこに組織カルチャー的なギャップが生まれるじゃないですか。最後にやっぱり残るのが、やる人たちに落とすときの納得感というのをいかに醸成するか。正解は会社によっても違うんですよね。

 カリスマ創業社長が「こっちだ」というと、みんながその通りに従うようなカルチャーだとすると、議論しなくてもいいわけです。でも、歴史のある企業では、社長がサラリーマン出身であり、ある事業部の出身ですから、そもそも別の事業部からすると「あいつは敵だ」みたいなところがあったりしますよね。そうすると、社長がこう言ったからといって、他の事業部が同意するかというと、なかなか難しい。「おたくの事業部はいいけど、うちは違うよ」みたいな(笑)。そこの落とし方は、それなりのコンセンサスを組織の中でどのように作るのか、という工夫が必要ですね。

中野氏 Facebook、Netflix、Workday、Salesforceといった北米企業を見ると、カルチャーをコントロールすることでコンセンサスを取っているフシがあるんですよね。もちろん報酬や評価制度もあるけれど、カルチャーを話題にしていることが結構ある。

 この“カルチャーのコントロール”は、要はふんわりした洗脳なのではと思いますが(笑)。

 採用のときにも、スキルを見るだけではなくて、カルチャーが合うかどうかをかなり慎重に見ている印象はありますね。オフィスのデザインにまで思想が入り込んでいる。また、評価やマネジメントにおいても入社した後にも定期的にマネジャー研修を行ってブレないようにしているようです。

 これは採用、評価におけるマネジャーの持つ裁量が大きいことによるのだろうと思います。例えばNo Ratingの評価制度(評価をしない評価制度)を導入したら、マネジャークラスの視点の一致が重要になるから、マネジャーへの教育は日本企業よりずっと熱心なのだと思いますね。企業文化がはっきりすると、もちろん合わない人も出てくるわけで、合わなければ人材流動性の高さも相まってさっさと辞めて移っていく。

 「われわれが目指すべきなのはこういう世界観で、それをあなたたちマネジャーは、こういうふうに実現するんです」という話を作り込む。「企業によるふんわりした洗脳」を組織的に戦略的にやっているように見えます。だからこそスピードが速い。「コンセンサスを人工的に作り込む」のが北米型の外資系企業にありがちな特徴だと思っています。

 バックボーンが全く異なる人を集めた多国籍企業を機能させるには、必要な側面があるのでしょう。「働き方改革」とかのんびりした話ではなく、全く異質な人が集まるわけです。場所も違えば時差まで違う、話す言葉まで違う。そんな人達を束ねて、シビアな市場が期待する「高いハードル」を超えなければならない。それをやり切るためにどうしたらいいか――と逆算すると、そうなるよねぇって感じになりますね。システム投資に莫大な額を突っ込むのも、そこが違うからだろうと。

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