Webと実店舗の共食いを超えた先キラーウェブを創る(6) 良品計画(2/4 ページ)

» 2009年06月28日 08時00分 公開
[前野智純,ITmedia]

以下の記事は、前野智純著『キラーウェブ 儲かるウェブの裏側』の内容を再編集したものです


カニバリゼーションを引き起こさない

 「情報に接触して購入を決め、決済をするという一連の消費者行動を1つずつ分解して考えると、最初の接点は実店舗、ネットのどちらでもいい。商品も都合のいいところで買ってもらえれば」――。良品計画は、最終的に商品のファンになってもらえるのであれば、実店舗とWebを分ける必要はないと考えている。

 実店舗を持つECサイトは、戦略上ターゲットやコンセプトを絞って訴求するケースがよくある。仮にECの販売が伸びても、実店舗が落ちればそれは結果的に共食いになり、企業の成長に結びつかない恐れがある。

 店舗とWebの連携を図る場合、お互いの強みと目的を明確にすることが肝要だ。Webによって露出と提案の機会が増えることで、多様化したライフスタイルに幅広く対応できる。お互いの強みが生かせれば、結果的にシナジーを生むことが可能になる。

 実店舗の強みは、実際の商品に触れて、質感まで確認できること。ネットの強みは、車や家など店舗に置けない商品も紹介できる無制限のスペースだ。2007年の段階で、無印良品が販売しているアイテム数は、実店舗で約7000点、ネットストアで6000点である。2つの間でほとんど差がない状態だ。

 店舗で気に入った商品があっても、重くて持ち帰るのが大変そうであれば、ネットで注文してくれればいい。またネットを見て興味を持ち、実物を見て購入を検討したいのであれば、店舗に来てくれればいい。47都道府県すべてに出店している無印良品は、こうした戦略を実現できる点で大きな優位性があるといえる。

 この考え方が定着する2004年以前までは、「ネットはネットで」という考え方が強く、結果としてリアルとネットがバラバラで運営されていたという。2004年を境に、同社の売上高は大きく成長した。景気の回復という要因もあったにせよ、「お互いの強みを生かす」というコンセプトが根付いてきたことが、売り上げの伸びに大きく影響していることは間違いない。

ネットメンバーの60%がネット購入未経験者

MUJI.netメンバーの会員は見込み客である MUJI.netメンバーの会員は見込み客である(出典:『キラーウェブ 儲かるウェブの裏側』)

 カタログや雑誌広告などの紙媒体も、顧客との重要な接点になる。これらをネットと連携させる試みの1つが、「MUJI.netメンバー」である。同サービスにメンバー登録すると500円分のクーポンがもらえるほか、新商品の先行購入やネット内のアウトレットモールで買い物ができる。こうした特典が受け、会員数は2007年6月現在で116万5000人と100万人の大台を超えた。

 ここで意外なのは、すべての会員がネットでの購入経験があるわけではないということだ。MUJI.netは、ネット以外のアナログ媒体でも積極的に案内しているため、会員には実店舗でしか購入したことがないメンバーも含まれる。現時点では60%のメンバーが、ネットで商品を購入したことがないという。

 物販において、「見込み客の発掘」はとても重要だ。購入に至るまでのプロセスを、マーケティングとセールスに分類するならば、買う可能性のある人を目の前に連れてくるまで、つまり見込み客の発掘プロセスまでがマーケティング活動といえる。無印良品ネットストアにとって、ネットで購入経験のない60%のメンバーは「見込み客」であり、会員登録に至るまでのプロセスはマーケティングそのものだといえる。

 ネットや店頭、雑誌などで発掘した見込み客に対して、ネットクーポンなどの特典のほか、週1回のメールマガジンを提供してネット購入を促すセールス活動につなげる。現実の販売チャネルを、ネットのマーケティングツールとして有効に活用しているわけだ。「ネットはネットで」と考えていたこれまでに比べ、売り上げが飛躍的に伸びているのは、ネットとリアルの連携がうまく進んでいるからといえる。

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