Webと実店舗の共食いを超えた先キラーウェブを創る(6) 良品計画(1/4 ページ)

実店舗がある企業にとって、ECサイトは本業の利益を奪い取ってしまう存在になりかねない。だが下手にすみ分けを意識すると、ユーザーが離れていってしまう。店舗とWebの共食いを防ぐにはどうすればいいのか。

» 2009年06月28日 08時00分 公開
[前野智純,ITmedia]

キラーウェブを創る

ライバルがひしめくネットの世界を生き残っていくには、Webサイトを「キラーウェブ」に育て上げる必要がある。キラーウェブとは、何らかの要素で「一番」を持ち、それがユーザーに支持されているWebサイトのことを指す。本連載では、ECサイトを成功に導いた企業の試行錯誤を基に、勝ちパターンを探っていく。

バックナンバー

(1)キラーウェブでなければ生き残れない

(2)ありふれた商品でもカテゴリーキラーになれる(ケンコーコム)

(3)「言葉の市場」を攻略するニッチターゲティング(ネットオフ)

(4)自社をメディア化する「Web情報武装」の正体(ゴルフダイジェスト・オンライン)

(5)商品の質こそがキラーファクターになる(オイシックス)

(6)Webと実店舗の共食いを超えた先(良品計画)


 これまで、5回にわたってキラーウェブの作り方とその事例を紹介してきた。名の知れた大企業よりも、各カテゴリにおいてナンバーワンに成長した中小企業の事例の方が、多くの人にとってより有効な情報になるという思いから、本連載ではいわゆるベンチャー企業に焦点を絞って紹介をしてきた。

 ただ、十把ひとからげに大企業といっても、その優位性はさまざまである。特にWebマーケティングの展開は、おのおのが工夫に工夫を重ねている。だが、知名度と豊富な資金だけでうまくいくほど今の市場は甘くない。混乱を極めるメディア環境において、確固たるWebマーケティングの成功法則はないからだ。

 予算をふんだんに投入してプロモーションに打って出ても、効果が検証できないと次が見えてこない。企業規模の大小にかかわらず、その検証のプロセスに緻密さを要求されるのがWebである。

 例えば、日本コカ・コーラは、モバゲータウンの中で「足あと」を残してファンタのプロモーションを展開したり、初のWeb誘因コマーシャル「純金名刺」の際に、「名詞」という誤変換も想定したSEO(検索エンジン最適化)を施したりと、かなりきめ細かな施策を講じていた。

 また、打つ手が失敗に終わった経験を生かして、Webキャンペーンを成功させた大塚製薬のファイブミニのプロモーションのようなケースもある。結果的に、ティーザーサイトとテレビコマーシャルを連携したクロスメディアが奏功した。各メディアとの連携のストーリーを想定することは、今後のマーケティングに欠かすことのできない要素だろう。

 非常に質の高いコンテンツをYouTubeでゲリラ的に配信し、世界中から注目を集めたナイキジャパンのプロモーションも、動画の活用とグローバルマーケティングという視点で興味深い。言語の違いに影響されないよう、ほとんどセリフのない映像を作り、コンテンツのおもしろさで世界中に認知を広めた。制作コストは掛かっているが、配信のインフラはYouTubeである。中小企業にも大いに参考になる事例だ。

 こうした中でも、中小企業にとって最も参考になるのは、店舗とWebの兼ね合いを意識し、お互いの相乗効果を狙った良品計画だろう。実店舗を持っているところは、カニバリゼーション(共食い)を危惧して、Webでの販売に踏みとどまる場合が多い。下手に何らかの「すみ分け」を意識すると、ユーザーのかい離を招いてしまう。

 良品計画が出店する無印良品の店舗のうち、最大の売り上げを誇るのは、年間40億円以上を売る有楽町店(売り場面積約3500平方メートル)だった。しかし、EC(電子商取引)サイトの無印良品ネットストアの売り上げが2006年に約50億円になり、売り上げで実店舗を凌いだ。2000年からスタートして約6年で、ネットストアの売り上げは12倍になった。結果的には、Webと実店舗がカニバリゼーションではなく、シナジー(相乗効果)を引き起こした格好だ。

 ではリアルとネット双方の成長を果たした良品計画の秘密を探っていこう。

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