Chatterは次の世代のための技術――クラウドが企業の全体最適に踏み込む日Dreamforce 2009 Report

「SharePointやLotus Notesは時代遅れ。Chatterは企業の中で起きていることを集約していく」とsalesforce.comで製品とマーケティングを担当するジョージ・フー代表取締役副社長は語る。企業における全体最適の横串として機能することが予想されるChatterは次の世代のための技術であると強調する。

» 2009年11月21日 03時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 かつて、ソフトウェア業界で最ももうかる分野であったCRM(顧客関係管理)。しかしそれは、ソフトウェア業界の欠陥を象徴する分野でもあった。CRMシステムはインストールが難しく、使用方法も複雑で、数千万の経費がかかることもしばしばであり、CRMシステムを導入した企業が、投資に見合うリターンを得ることなどほとんどなかったといってもよい。

 一方、10年前にsalesforce.comが顧客に提供したのは、まったく異なるものだった。顧客はソフトウェアライセンスや保守契約に金を払わなくてよい。新しいサーバの増設なども必要ない。マーケティング担当者や販売担当者は、Webブラウザを立ち上げ、salesforce.comをクリックして仕事を始めるだけだ。この考え方は広く受け入れられ、salesforce.comはまたたく間に時代の寵児(ちょうじ)となっていった。

 クラウドの利用は有力な手段であり、差別化の源泉であることをこの10年間にわたって示してきた同社だが、米国サンフランシスコで開催中の「Dreamforce 2009」では、同社の次の10年を担う重要な戦略製品と位置づけられたコラボレーションクラウド「Salesforce Chatter」を発表し、話題を集めている。Chatterは、単にTwitterやFacebookなどのコンシューマWebの技術をForce.com上にデプロイしただけではない。企業システムの部分最適から全体最適を図る際の巨大な横串として、企業のコラボレーション基盤を構築しようという非常に野心的な取り組みだ。

 「ユーザー自ら情報を探すのは古い技術。Salesforce Chatterは次世代ユーザーのための新しい技術である」――salesforce.comで製品とマーケティングを担当する、ジョージ・フー代表取締役副社長はこのように語る。同氏に話を聞いた。

SharePointやLotus Notesが時代遅れであることに気がつくべき

Chatterとsalesforce.comの解析ツールを統合することで、今後はビジネスインテリジェンスの機能なども追加されるとフー氏

―― Chatterによってメールのようなコミュニケーションは淘汰(とうた)されてしまうのか?

フー 例えばメインフレームがいまでも生き残っていることからも分かるように、技術というのはすぐに消えてなくなるものではない。これはメールについても同様だ。ただ、若い世代はTwitterやFacebookのようなソーシャルメディアの方がメールよりも使いやすいと考えている。企業のコラボレーションもメールからソーシャルメディアに移っていくと思う。

 (われわれが提供している)Sales cloud 2もService Cloud 2も、主に直接顧客に接している人がターゲットとなっていた。しかし、Chatterはメールと同様、全社員が使うコラボレーションクラウドである。Force.comというセキュリティとプライバシーをしっかりと担保したプラットフォーム上で利用できるという安心感と、Salesforceにある既存データと連係して利用できることが大きな差別化につながると考えている。

―― 企業統制の観点から考えて、Chatterは問題なく受け入れられるのか?

フー 現状、FacebookやTwitterが企業でも公然と使われているのに対して危機感を持っているCIOは多い。社外のデータなのでセキュリティやプライバシーをコントロールできないからだ。Chatterにより、便利ではあるが管理できなかったデータを管理できることになるので受け入れられると思う。

―― Chatterは具体的にどういった製品のシェアを奪うことになるのか?

フー SharePointやLotus Notesに取って変わる技術だ。これらのコラボレーションツールは“ユーザーに情報を探しに行かせる”という意味で、もはや時代遅れだと考えている。

―― OracleやSAPが今後、PaaS(サービスとしてのプラットフォーム)に乗り出す、あるいは自社製品周辺にプラットフォームと開発環境を提供するために、例えばMicrosoftと協力するといった可能性は?

フー 彼らは過去にとらわれている。いまだにOracle Exadataのようなアプライアンスを買ってくれだなんていっている。ハードウェアとソフトウェア“だけ”で勝負しようとするのはすでに過去のやり方だ。もっとも、彼らはイノベーションをあえて起こさないでいるように思える。過去にしがみつくこと、言い換えれば新しいことをやらないことが彼らのビジネスの収益につながるからだ。そうした事情がある故に、われわれがやっているのと同様の方向にはなかなか進まないと思う。

―― コンシューマーWebで強力な勢力であるGoogle、Twitter、Facebookといった企業と今後競合する可能性は?

フー Googleについていえば、技術的に重なっている部分はほとんどないとみているので、直接競合することはないと思う。GoogleはGoogle AppsやGoogle Mapsといったコンシューマー向けのアプリケーションを収入源としているのに対し、われわれは彼らが取り扱っていない企業向けのアプリケーションを主な収入源している。また、Chatterは企業のアプリケーションやデータとアーキテクチャレベルで統合されており、コンシューマー向けのコラボレーションツールとは構造を異にする。

 一方、TwitterやFacebookが持つビジョンははわれわれのビジョンと似ているものの、使命が違うと考えている。彼らはクラウドソースの巨大なデータベースにパブリックな形で情報を集約するが、Chatterは企業の中で起きていることを集約していく。それはTwitterではできないことは先ほど述べたとおりだ。ただし、お互い助け合えることがあると思う。

―― コンシューマーWebで成功した技術はうまく企業になじむだろうか? 特に旧来型の企業に対して。

フー われわれがSFAの販売を開始した時を振り返ると、新しいものに抵抗がなく、積極的に取り入れるハイテク産業から導入が進んだ。これと比べ、Chatterは新技術ながら広範な人々からポジティブな反応が得られている。

 われわれは、Chatterを提供するに際して2つのことを前提としている。1つは、FacebookやTwitterは操作が簡単であり、利用に際して特別な訓練が要らないということ。FacebookやTwitterを使っていない企業ユーザーは少なくないが、これは、これまでそれらを使う必然性がなかったからだ。必然性があれば、非常に便利なツールなので、使ってもらえると確信している。

 もう1つは、われわれは未来の技術を提供したいと考えており、次の世代のために技術を作るということだ。これから企業に入ってくる若い人たちはFacebookやTwitterをすでに使いこなしている。現時点で企業にいる人たちしか見ていないOracleやMicrosoftとは本質的に異なる点だ。

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